腰痛とは、その名の通り、腰が痛いという症状のことです。
・どうして腰が痛いんだろう?
・何が原因だろう?
・どうすれば治せるんだろう?
このような疑問を持って、インターネットで検索する人がたくさんいらっしゃいます。
ところが、インターネットで根拠のある正しい医療情報を見つけるのはとても難しく、間違った情報、古くなってしまった情報、誤解された情報でいっぱいです。
こうした腰痛の問題を一つ一つ解説しながら、どうすれば腰痛が治るのか考えていきましょう。
腰痛の原因と治し方(まとめ) 目次
腰痛にまつわる誤解
おそらく、腰痛ほど誤解の多い症状もほかにないでしょう。日本人の4~5人に1人が腰痛といわれているなか、腰痛情報が大量に飛び交い、腰痛の専門家も乱立しているのに、腰痛は増える一方です。
その理由の一つは、医学がめざましい発展をしているのに、最新情報がなかなか広まらないことにあります。医療関係者であっても、腰痛の新しい知識を知らないケースが少なくないといわれています。
まずは、誤解されやすい腰痛情報から見ていきましょう。
腰痛は年齢のせい?
昔から、腰痛は齢のせいといわれてきました。もしかすると、今でもそう言われてしまうことがあるかもしれません。
しかし、統計調査を見てみると意外なことに、腰痛は年齢が上がるとともに減っていく傾向があります。また、20代でも5人に1人は腰痛があります。若い人の腰痛もかなり多いことが分かります。
齢を取ったから腰痛になると単純に言い切れるものではありません。
腰痛は炎症のせい?
腰痛は腰を傷めて炎症が起きているせいだといわれることがありますが、そう単純に言い切れるものではありません。
なぜなら、多くの腰痛では炎症が見つからず、炎症の対策をしても効果が出ないことが分かっているからです。安静にしても、強力な抗炎症剤(ステロイド)を使っても、腰痛には効果がありません。
むしろ、普通に日常生活を送った方が早く治ることが確認されていて、このことは診療ガイドラインにも明記されています。
腰痛は安静第一?
ぎっくり腰など、強い痛みがあると動いたら余計に悪くなるのではないかと思うのも無理はありません。しかし、腰痛の患者さんを安静にするグループと普通に生活してもらうグループに分けて比べてみたところ、安静にすると治るのが遅くなることが分かりました。
痛みが強いときに激しい運動をする必要はありませんが、横になって安静にしていると自然な回復が遅くなってしまいます。出来る範囲でいいので、日常の生活を維持するように心がけてください。
姿勢や骨盤のゆがみが腰痛の原因?
腰痛は姿勢のせいだとか、骨盤のゆがみが原因だという情報はインターネットにあふれていますが、それは本当に正しいのでしょうか。実はこうした問題は半世紀も前から検証されていて、心配いらないことがハッキリしています。
背骨や骨盤などの骨のゆがみで腰痛になるのなら、ゆがんでいる人ほど腰痛が多いはずです。しかし、健康な人と腰痛の人を比べてみると、ゆがみ方に差はないことが分かりました。
体を整える施術で痛みが消えることはあります。しかし、それだけで因果関係を証明したことにはならないのが医学の難しいところでもあります。
腰への負荷で腰痛になる?
「腰に負担をかけると腰痛になる」と心配される方はとても多くいらっしゃいます。確かに、農作業や荷運びの仕事は腰がつらそうに見えてしまいます。
ところが、農作業をしている人たちと、そうではない人たちを詳しく比べてみたところ、腰痛の原因は腰への負担ではないことが分かりました。驚くべきことに、腰への負担が大きい人ほど腰痛は少なかったのです。
負荷をかけると筋肉が発達して丈夫になるイメージを浮かべていただくと分かりやすいかと思います。現在では、腰への負担を怖がらず、適度に負荷を与える(運動する)方が腰にはいいことが分かってきています。
コルセットで腰痛を予防したり治療できる?
コルセットは、痛みが強くて動けないときの補助として使われる装具ですが、腰痛を早く治すという効果は確認されていません。
また、腰痛を予防する効果もありません。
腰痛改善のためには、痛みの恐怖心を乗り越えることが大切です。恐怖心は痛みを悪化したり、長引かせたりすることが分かっているからです。
コルセットを使うことで動けるになるなら使って構いませんが、痛くないのにコルセットがないと不安というのはちょっと行き過ぎのように思います。過剰に頼りすぎないようにお使いください。
レントゲン・MRIで腰痛の原因は分からない
レントゲン・MRIなどの画像診断は、骨の異常や内臓の病気を見つけることができますが、痛みそのものを見つけることはできません。
「骨に異常がある」と言われると、つい原因はそれだと考えてしまいがちですが、骨に異常があっても痛くもなんともない人がたくさんいることが分かっています。
腰痛の85%は原因が見つからない
病院に行けば腰痛の原因を見つけてもらえるんじゃないかと期待する人は多いでしょう。
しかし、病院で検査をしても、はっきりとした原因が見つかることは少なく、腰痛全体の85%は診断がつきません。腰は痛いけれど、病気といえるほど明確な問題は起きていないということです。こうした大多数の腰痛のことを非特異的腰痛といいます。
診断がつく腰痛も中にはありますが、重篤なものは数%以下であり、ほとんどの腰痛は怖いものではありません。
椎間板の心配はいらない
病院で、骨の隙間が狭くなっていると言われても配はいりません。
背骨の骨と骨の間にあるクッション(椎間板)が水分が減って固くなったり、薄くなったりすることがあります。これを椎間板変性といいますが、それは年齢を重ねると誰にでも起こる自然な変化で、病気ではありません。顔のシミやシワと同じです。
椎間板の異常は成人の85%に見つかるごくありふれたもので、腰痛とは関係がありません。
腰痛でレントゲンを撮るメリットは少ない
腰痛になると、腰になにか大きな問題が起きていないか確認したくなるものです。確かにレントゲンを撮ると骨がどうなっているのか分かりますが、実は骨の状態を確認しただけでは痛みのことは何もわからない、というのが今の腰痛医学です。
骨に異常があっても腰痛がない人はたくさんいることが分かっているので、よくある骨の異常を見つけただけでは原因を特定したことにはなりません。どんな名医でも、レントゲン写真だけでは、その人に腰痛があるかどうかを当てることができないのです。
そして、レントゲンを撮ることで、治るのが遅くなることまで明らかとなっています。
レントゲン・MRI・CTは普通の腰痛には必要ない
レントゲンやMRIなど、画像診断をすれば腰痛の原因が分かると思われていたのは過去のことです。世界中の腰痛診療ガイドラインは、発症して1ヶ月以内の画像診断を禁止しています。治療に役立たず、放射線被爆などのデメリットもあるからです。
日本のガイドラインでは、全て撮る必要はないという曖昧な表現がされています。そのせいかレントゲンは減らず、腰痛患者も増え続けています。
腰痛とストレスの関係
かつて、腰痛は損傷による痛みだと考えられてきました。ところが、あらゆる検証の結果、多くの腰痛は単なる腰の損傷ではないこと、ストレス(心理社会的要因)に影響されることが明らかとなってきました。
そして、脳の活動を詳しく調べた研究によって、ますますストレスとの関係が注目されています。
ストレスが腰痛の原因になる
ストレスが腰痛の原因になるという話は、少し詳しい方であれば聞いたことがあるでしょう。人が生物として、生きていく上で欠かすことのできない根源的な感覚、恐怖や怒りなどの情動(感情)は、脳・自律神経を通じて体の状態に影響します。
身近なところでは、家庭や職場の人間関係、家族・親戚の病気や他界、生活環境の変化などがストレスの元になります。医学の研究では、大規模な震災や戦場でのストレスなどに注目した調査も行われていて、腰痛とストレスは切り離すことができないものだということが明らかとなっています。
ストレスの度合いは腰痛の発症に関わるだけではありません。腰痛の治療とも関係があります。ストレスが少ない人ほど、腰痛が治りやすいというデータがあるからです。
一部の病院では、患者さんの腰痛が治りやすいかどうかを心理テストを使って予想しようとする流れも生まれてきています。
社会環境が腰痛のリスクになる
ストレスが最も生じやすいのは他者との関係性においてですから、社会環境も腰痛と無縁ではありません。文献によると、腰痛のリスク要因には、労働条件や雇用条件、保険・保証、社会政策までが含まれています。
腰痛というとどうしても体の問題ばかりが注目されがちですが、腰のことばかり考えていても腰痛は分かりません。ストレスや痛みの恐怖心をどう乗り越えるかが腰痛医療の一つのテーマとなっています。
リストラで腰痛が増える
リストラが腰痛と関係している。不思議に思われるかもしれませんが、ある部署でリストラを行うと、退職した人も、職場に残った人も腰痛になりやすくなるという研究があります。社会的な立場を失うストレスもあれば、人手が減って仕事がつらくなるストレスもあって、それが腰痛と関わっているようです。
しかし、自己実現の場となるような、やる気の出てくる職場であれば、腰痛は改善する方向に向かうでしょう。腰痛について知ることは、生きる姿勢について考えることにもなるようです。
腰の負担より、心理状態の方が重要
腰に針を指して造影剤を入れる、椎間板造影という検査があります。侵襲的な(キズの残る)検査ですが、これが腰痛を起こすのか調べたところ関係はなく、それよりストレスの方が強い影響があることが分かったという研究があります。
腰に何をしたかより、そのときの心理状態の方が腰痛と深く関わっていると言えそうです。
脳から腰痛を考える
腰痛が長引くと脳が変化する
腰痛が3ヶ月をすぎても治らないものを慢性腰痛といいます。こうした患者さんの脳を調べたところ、驚きの変化が起きていることが分かりました。この10年くらい、非常に注目されている分野の話題です。
慢性腰痛では、脳の認知・情動に関わる部分が萎縮したり、過剰に働いたりしていることが明らかとなっています。怒り・悲しみ・不安・恐怖を生み出す扁桃体(へんとうたい)、理性でネガティブを調整する前頭皮質、気持ちを前向きにする側坐核などに変化が起こります。
痛みが治らないのは、腰のケガが治らないせいではなく、痛みを感じ取る脳に秘密がありました。ストレスが腰痛に関係している証拠といっていいでしょう。
腰痛を治せば脳は回復する
腰痛が続くと脳は変化を起こしますが、腰痛を治すことで脳が元に戻っていくことも確認されています。
最近注目されている認知行動療法では、痛みとの付き合い方を学ぶことで腰痛の恐怖心を克服しようとします。その結果、痛みの回復だけでなく、脳の状態も元に戻っていくことが確認されています。
同様の効果は通常の治療法でも確認されていて、やはり痛みが改善すると脳も回復するようです。
うつ病と腰痛は脳に同じ変化が起きている
ストレスが腰痛の原因になるのなら、非常に強いストレスを生む、うつ病はどうでしょうか。文献によると、うつ病患者の脳では、慢性腰痛と同じ変化が起きていることが分かりました。
うつ病の患者さんは腰痛の合併率が高いことが知られていますが、脳の状態から見ると非常に近い状態だったわけです。片や精神症状、片や痛みですが、脳にとっては同じように処理されているのかもしれません。
プラシーボ効果は強力な痛み止め
ストレスが痛みを引き起こすのなら、ストレスを軽減することが痛みの治療になるというのもご理解いただけるのではないでしょうか。
プラシーボ効果(プラセボ効果)は、何かに期待するポジティブな気持ちによって、実際に痛みが軽くなる作用をいいます。その研究によると、プラシーボ効果は単なる気のせいではなく、脳から鎮痛物質が放出されて、本当に痛みの治療になっていたことが明らかとなりました。
言い換えると、痛みを自分の力で治しているということです。
ペインマトリックス 痛みを感じる脳の領域
体の痛みを感じるということは、神経を伝わった電気信号が脳に到達したということです。脳がないと痛みを感じることはありません。では、脳のどこで痛みを感じているのでしょうか?
画像の通り、痛みは脳全体で情報のやり取りが行われた結果、生まれてくる感覚です。痛みは脳全体で感じているといってもいいでしょう。その多くは、痛みのことだけを扱う部位ではありません。記憶や情動、認知機能などに関わる部位が痛みの情報も扱っています。
手術の検討は慎重に
手術は腰痛治療の選択肢ではありますが、絶対の解決策ではありません。
しかし、一部ですが病気が原因の腰痛もありますし、患者さんそれぞれの事情に合わせて手術を検討することもあるでしょう。
手術に踏み切るかどうかは、医師の先生とよくよく話し合ってください。
緊急性のある腰痛を見分けるレッドフラッグ
腰痛のなかには、手術を必要とするものが少ないながらも存在します。また、緊急性の高い腰痛も一部ですが存在することは事実です。そうしたものを見分ける一つの方法として、レッドフラッグというチェック項目があります。
かいつまんで取り上げると、「動いても安静にしても同じように痛い」「理由のわからない体重減少」「発熱がある」などです。
こうした症状は、単なる腰痛ではなく、病気のサインかもしれません。該当する場合は、整形外科などに相談されるといいでしょう。
椎間板ヘルニアは自然に治ることが多い
一昔前は、椎間板ヘルニアといえば手術というイメージが強かったですが、今は違います。健康な人の76%に見つかるくらい、ありふれたものですから、怖がることはありません。
人はヘルニアと関係なく腰痛になり、ヘルニアとは関係なく治ります。
ヘルニアの手術は、適応を絞り込めば効果があるといわれていますが、長期成績で見ると手術しない場合と差がありません。後悔のないよう、よくよく考えることをおすすめします。
脊柱菅狭窄症だから手術とは限らない
高齢になると増える脊柱菅狭窄症ですが、こちらもヘルニアと同様、何がなんでも手術という時代ではありません。
神経の通り道である脊柱管が狭くなっても、多少神経が圧迫されても、問題はないことが分かっているからです。狭窄があっても健康に痛みなく暮らしている方は大勢いらっしゃいます。
また、脊柱管狭窄症の手術には、費用が高いばかりで効果が乏しいものや、再手術のリスクが高いものがあります。本当に手術が必要なのか、どんな治療を選ぶべきなのか、よくよくご検討ください。
腰痛の治し方
最終的に腰痛を治すのは、ご本人の持つ治す力です。それを自分で高める道もあれば、医療の力を借りる道もあります。情報を知り、より良い選択のための参考になれば幸いです。
腰痛は自然に治ることが多い
世間には腰痛を怖いものだと思わせて、治療に通わせようという自称:専門家であふれています。しかし、大多数の腰痛は怖いものではなく、自然に治ることがほとんどです。
中には慢性化してしまうケースもありますが、正しい対処法をしっておけば、そう怖いものではありません。
腰痛はしばしば慢性化する
腰痛は、発症してから短期間のうちに改善することが多い一方で、中にはいつまで経っても治らない慢性腰痛になることがあります。アメリカでの調査では、初めて病院を受診してから1年経っても治らない患者さんが33%いたという調査があります。
腰痛はどのくらいで治るの?1年経っても治らない人が33%というアメリカの調査
自分でできる3つの腰痛対策
腰痛を治すために、治療を受けるのも一つの選択肢ですが、全て先生まかせというのはおすすめしません。自分で出来ることを少しでもやった方が、早く治る可能性が高まります。
そのポイントは、「笑う、知る、動かす」です。このページやリンク先をお読みの方なら納得の対処法です。ぜひ参考にしてみてください。
より良い治療を選ぶためにエビデンスレベルを知る
腰痛の治療法にはいろいろな選択肢があります。私は鍼灸師ですから鍼灸をおすすめしたい所ではありますが、最終的にはあなたが自分で能動的に決めるべきです。
そのためには、最低限、医療情報を見るときに知っておくべきポイントがあります。「エビデンスレベル」を知り、有効性が確認されている治療を選ぶことをおすすめします。
運動は腰痛の治療にもなる
自分でできる慢性腰痛対策として、もっとも手軽なのは運動です。特にウォーキングはお金もかからず、無理なく行えるのでおすすめです。
運動の効果を知り、少しずつ生活に取り入れていきましょう。
病院で原因不明といわれたら?
腰痛で病院を受診したけれど、異常なし、原因不明で帰されてしまった。こんな経験はないでしょうか。病院は、緊急性の高い病気を見つけることに集中する一方で、そうではない症状についてはあまり時間を割いてくれないことがあります。
原因不明とはどういうことなのか、腰痛を改善するためにできることは何か、まとめました。
腰痛の正しい認識と治療法の選択
以下のリンクは2017年に書いた腰痛の記事です。他の記事と内容がかぶっている部分も多いですが、お時間のあるときにのぞいてみてください。
腰痛に対する鍼灸の有効性
鍼灸は腰痛に対する有力な選択肢の一つです。
鍼灸の効果は臨床試験で確認されており、WHO(世界保健機関)は腰痛対策の選択肢として鍼灸を挙げています。
また、海外の腰痛診療ガイドラインでも鍼灸は推奨されています。
腰痛でお困りの際は、鍼灸をご検討ください。