そもそも炎症とは
「腰が痛いのは炎症のせいだ」と説明されることがあります。
炎症の身近な例としては、足首を捻挫して腫れてしまった状態や、カゼをひいてノドが痛い状態などがそうです。
どちらの場合でも、白血球が活躍して、壊れた細胞や微生物などを取り除いて、元の状態に修復しようとして起こる反応です。このとき、血管が広がって充血したり、体液が集まって腫れたり、痛みが起きたりします。
腰痛の痛みも、このような炎症のせいなのでしょうか?
実のところ、「腰痛は炎症」という説明はいささかザックリしすぎているというか、あまり正しい説明ではありません。そのため、安静にしないといけないとか、冷やさないといけないという誤解につながっているように思います。
腰痛の85%は診断がつかず、炎症も見つからない
腰痛は病院で検査をしても異常が見つからないことは珍しくありません。腰痛の85%が原因を特定できないといわれていて、このような大多数の腰痛を「非特異的腰痛」と呼んでいます。
異常が見つからないということは、炎症も見つからないということです。
炎症性疾患は最初にチェックされる
注意深い問診と身体検査により,red flags(危険信号)を示し,腫瘍,炎症,骨折などの重篤な脊椎疾患が疑われる腰痛,神経症状を伴う腰痛,非特異的腰痛をトリアージする.
トリアージとは緊急性の高いものを選別することで、炎症があるかどうかも確認されます。つまり、病院を受診して「異常なし」と判定されたのであれば、ひとまず炎症の心配は無いということです。
ガイドラインは筋筋膜炎に否定的
アメリカのガイドラインは、筋筋膜炎・腰椎捻挫・腰部挫傷などの診断名について「腰痛との関連を示すことができない」と否定的です。
Acute Low Back Problems in Adults(AHCPR,1994)
多くの腰痛は腰の筋肉に痛みが出ますが、ケガ(損傷)や炎症を起こしているわけではないというのです。
昔は腰痛といえば捻挫などのケガ(外傷・損傷)や炎症のせいだと思われていたわけですが、近年では大きく考え方が変わってきています。具体的には、心理社会的ストレスによって起こる痛みという考え方です。
炎症が関係する腰痛は5%前後
診断のつかない腰痛に炎症の心配はない。では、診断がつく腰痛ならどうでしょうか。
診断のつく腰痛は全体の15%ほどで、「特異的腰痛」と呼ばれます。そのうち脊椎炎などの炎症性疾患は1%以下で、かなりのレアケースです。
高齢の女性に多い圧迫骨折は腰痛の4%を占めています。圧迫骨折があっても痛まないケースもありますが、痛むものについては炎症を伴っていると考えてよさそうです。その他、1%以下ですが尿路結石などで炎症を伴う場合もあります。
合わせると、炎症が関わっている腰痛は5~6%程度と考えることができます。やはり、多くの腰痛は炎症のせいではないといえそうです。
炎症対策は腰痛に通用しない
腰痛にはステロイドが効かない
炎症に強い効果を発揮する薬として、ステロイド剤があります。もし腰痛が炎症による痛みなら、ステロイド剤には強い効果があるはずです。ところが、ステロイド剤は腰痛に効果が認められないため、世界中の腰痛診療ガイドラインで推奨されていません。
ステロイドの内服はプラセボと差がないことが報告されている
日本腰痛診療ガイドライン2012 治療
ニセの治療(プラセボ)と差がない、つまり効かないということです。
腰痛は温めた方が治りが良い
昔、急性腰痛(ぎっくり腰)は根拠なく冷やせといわれていました。しかし、今では温めた方が良いことが分かっていて、ガイドラインにも温熱療法について記載があります。
温熱療法は,急性および亜急性腰痛に対して短期的には有効である.
日本腰痛診療ガイドライン2012 治療
炎症であれば温めるべきではありませんが、多くの腰痛は炎症ではないので温めて大丈夫です。
腰痛は安静にしてはいけない
別の記事で詳しく解説していますが、腰痛は安静にしていると治りが遅くなることが知られています。炎症があるときに安静にするのは正解ですが、腰痛の場合は逆効果ですのでご注意ください。
そもそも腰痛に炎症の徴候は見られない
疼痛・発赤・腫脹・発熱・機能障害の5つを炎症の5徴といいます。腰痛の場合、赤く腫れて熱を持つことは滅多にありませんので、症状の特徴から見ても炎症には該当しません。
例えば、ギックリ腰(急性腰痛)は、朝に顔を洗おうとして洗面台で前かがみになっただけで発症することがあります。クシャミをした途端に起こることもあります。しかし、それだけのことで腰がダメージを受けて炎症を起こすというのは考えにくいことです。
痛みのメカニズムは複雑です。仮に検査で見つけられないような微細な炎症が隠れていたとしても、それだけで即痛むと決まるものでもありません。例えば、変形性関節症があっても痛くないケースは珍しくありません。
知れば知るほど「痛いのは炎症のせいだ」とは言えなくなってきますし、どちらかといえば「痛いのは鎮痛作用が低下しているせいだ」という方が正解に近いのではないでしょうか。
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