腰痛は姿勢のゆがみが原因?それとも骨盤のゆがみ?
「腰痛の原因は姿勢のゆがみ」
このような主張はインターネットをはじめとしたあらゆるメディアで目にします。もしくは、骨盤のゆがみが原因だとする記事もたくさんあります。どちらも、ゆがみによって筋肉に余計な負担がかかり痛みが出るという理屈です。
しかし、これは奇妙です。もし、本当に腰痛の原因が姿勢なら、それは特異的腰痛として診療ガイドラインに書かれているはずですが、そうなっていません。ポイントは2つあります。
1,原因という言葉の扱い(前回の記事)
2,腰痛と姿勢の関係についての理解
今回は、医学における正しい姿勢の起源から、姿勢と腰痛にまつわる研究を紹介していきます。
正常姿勢という神話

「正しい姿勢」でネット検索すると、このような画像が大量に出てきますが、その起源は19世紀にさかのぼります。
19世紀、不良姿勢は様々な全身疾患に関わると考えられており、姿勢への関心が高まっていました。そこから、複数の研究者が正しい姿勢を提唱することになります[1]。
ウェーバー兄弟は、17世紀にボレリによって提唱された「身体のすべての部位がバランスが取れていれば、筋肉の助けなしに下肢の骨だけで全身の体重を支えることができる」という非現実的な仮説に基づき、理想的な姿勢を「考案」しました。
また、ブラウンとフィッシャーは、凍った遺体を用いて重心を計測し、最も重心がきれいにそろう姿勢を割り出し、正常姿勢(Normalstellung)と呼びました。後年、正常姿勢は批判されます。生きた人間が立っている姿勢は、横にして凍らせた遺体の姿勢とは違うからです。
理学療法への転用、規範化
理学療法の名著とされるケンダル(Kendall)の「姿勢と痛み」は、ウェーバー兄弟が提唱した姿勢を掲載し、「正常姿勢」および「理想的な姿勢」と呼びました[1]。初版には、「これは、非常に多くの関節と身体の各部位の位置と整列に関わるため、あらゆる点でこの基準を満たす個人はまずいないだろう。実際、著者らはあらゆる点でこの基準に合致する個人を見たことがない」とありましたが、以降の版ではこの記述が削除されます。
このように、もともとは非現実的な仮説を元に考案された姿勢が、正常姿勢として理学療法の書籍で紹介され、理想のあるべき姿勢として規範化されてきたというのが歴史です。
もともと健康とは何の関係もなかったものが、時代背景もあって支持され、誤解されてきました。
しかし、現在は違います。レントゲン、MRIの登場とともに、姿勢・骨格バランスは精緻に研究され、姿勢と腰痛の関連性は弱いというのが医学においてスタンダードな理解となっています。
姿勢と腰痛の研究
腰の曲がり方と腰痛に関係がないという研究
1957年に腰痛患者200人、健常者200人を比較した研究があります。それによると、姿勢異常の検出率に差がありませんでした。側湾症にいたっては健常者に多く見つかりました。これはつまり、姿勢と腰痛には関係がないということです。

腰椎前湾というのは腰の反り具合のことで、それが過剰なのはいわゆる反り腰、減少しているのは腰が平坦で猫背の人に多い姿勢です。しかし、どちらであっても腰痛との関連性はありませんでした。

腰のカーブが過剰だとか減少してるといわれると心配になりますが、個性の一つであって、健康に影響するものではありません。
仙骨から調べても関係はないという研究
もう一つ研究をご紹介します。
急性腰痛患者200名、慢性腰痛患者200名、健常者200名を対象にレントゲンで仙骨の角度(ファーガソン・アングル)を比較しました。その結果、3つのグループに差はありませんでした。

仙骨の角度はその上に続く腰の反り方に直接影響します。ですから、仙骨の角度と腰痛に関係がないということは、腰の反り具合と腰痛には関係がない、という話になります。腰は曲がっていても反っていても真っ直ぐでも、腰痛の原因にはなりません。
The lumbar lordosis in acute and chronic low-back pain.
骨盤のゆがみは腰痛と関係なし
次に、骨盤のゆがみについてです。
1999年に発表された研究です。腰痛患者144名と健常者138名を対象に、骨盤のゆがみを詳しく調べました。その結果、どのような意味においても骨盤のゆがみと腰痛は無関係という結論が出されました。
The association between static pelvic asymmetry and low back pain.
昨今、骨盤矯正という施術が行われていますが、そもそも骨盤と腰痛には関係がありません。
骨盤は寛骨、仙骨、尾骨が合わさってできていますが、基本的に動かない一つの固まりです。仙腸関節については数ミリだけ動くことが分かっていますが、ほぼ動かないと考えて差し支えありません。骨盤が何かの拍子にゆがむなんて普通は起こりませんし、もし手で動かせるほど軟弱なら人は立って歩くことができません。
骨盤矯正といわれるものは、骨盤の周りの筋肉をマッサージしているのであって、骨盤そのものを矯正しているわけではないのです。
より上位の研究では
医学研究は1つだけで結論が出るものではありません。一つ一つの研究結果にばらつきが出ることは珍しくありません。そこで、同じテーマの研究を集めて、質の高いものを選別し、結果を統合・再分析する上位の研究があります。
システマチックレビューやメタアナリシスと呼ばれるものです。
2025年のシステマチックレビュー+メタアナリシスです。「姿勢」と「腰痛」をキーワードに文献検索して、51,362件の中から46件の論文が基準を満たしました。腰痛のある人とない人を比較して、腰椎前弯、後弯、骨盤傾斜角、仙骨傾斜角いずれも統計的に有意差なし。研究間のばらつきが大きく、確固たる結論は得られなかった、という結論です。
Postural asymmetry in low back pain - a systematic review and meta-analysis of observational studies
このように、上位の研究においても、姿勢と腰痛の関係は否定的です。
姿勢改善の効果はあるのか
姿勢が腰痛の原因である、という考えのもとに、固くなった筋肉をストレッチしながら拮抗筋を強化する、という方法があります。その効果を調べた研究が興味深い結果になっています。
Effects of Stretching or Strengthening Exercise on Spinal and Lumbopelvic Posture: A Systematic Review with Meta-Analysis
文献検索を行い、合計23件の研究(参加者969名)が特定されました。対象となったのは、健康な被験者における脊椎および腰骨盤姿勢(骨盤傾斜、腰椎前弯、胸椎後弯、頭部傾斜など)に対するストレッチまたは筋力強化の効果を調査した対照臨床試験です。
その研究結果を統合したところ、ストレッチは姿勢への影響はありませんでした。筋力強化は、胸椎・頸椎領域では姿勢改善に大きな効果がありましたが、腰椎と腰骨盤部では効果がありませんでした。
ストレッチも筋力強化も腰の姿勢を改善しない。しかし、理学療法では腰痛対策として効果が認められるので、どちらも普通に行われています。ここから考えられるのは、腰痛が改善するのは姿勢が良くなったからではなく、単に運動全般が痛みに効果的だから、という可能性です。
ちなみに、徒手療法になるともっとエビデンス(科学的根拠)が弱くなります。痛みには効果があるのでガイドラインで推奨されることがありますが、姿勢を改善する効果については何ともいえません。
まとめ
正しい姿勢は、元を辿れば非現実的な仮説から生まれました。それが時代背景もあって支持されてしまい、理学療法のテキストにも使われました。しかし、その後の研究によって、姿勢と腰痛は思ったほどの関係ではないことが明らかとなりました。日本の腰痛診療ガイドライン2019には、姿勢は一言も出てきません[2]。姿勢が重要なら、出てこないはずがないのです。
姿勢のゆがみ・骨盤のゆがみを心配する必要はありません。
私も経験がありますが、医療関係者に「ゆがんでいる」と指摘されると、誰だって不安になります。しかし、人は全員、何かしら体のゆがみを持っています。定規で線を引いたような背骨を持つ人なんていませんし、肩の高さが左右きれいにそろっている人もいません。右利き左利きもありますから、人体に左右対称はありえません。
姿勢のゆがみを指摘されて不安になることは、それだけで腰痛にとってマイナスになる可能性があります。不安は痛みを大きくする傾向があることが近年分かってきているからです。
姿勢を心配するより、心に余計な負担をかけない方が腰にはずっといいのです。
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参考
[^1] The standard posture is a myth: a scoping review
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