腰痛や坐骨神経痛(足の痛み・しびれ)で病院に行き、検査を受けたら椎間板ヘルニアと言われてしまった。このような場合はどうしてもショックを受けるでしょうし、不安やストレスに悩まされることにもなるでしょう。

もしかすると、椎間板ヘルニアに対して、もう治らないとか、ずっとこのままというようなネガティブなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

椎間板ヘルニアの図

椎間板ヘルニアは一般的に、背骨の間にある椎間板というクッションがつぶれて飛び出し、神経を圧迫して痛みやしびれを引き起こすと説明されます。そのため、治療には手術しかないとか、手術が嫌ならだましだまし付き合うしかないというイメージが強いようです。

しかし近年の研究によって、椎間板ヘルニアがあっても手術せずに問題なく治る場合が思いのほか多いことが分かっています。

椎間板ヘルニアが自然に消滅する

椎間板ヘルニアは、およそ2~3ヶ月で自然退縮することが少なくありません。飛び出した椎間板が小さくなって消えてしまうというのです。

これはマクロファージという白血球の働きです。マクロファージはアメーバ状の免疫細胞で、体内の細菌や壊れた組織などを取り込んで(食作用)、掃除してくれる働きがあります。これによって、飛び出した椎間板の組織が食べられて、消えていくというわけです。

そのため、病院で椎間板ヘルニアが見つかってもすぐに手術とはならず、痛み止めを飲みつつ様子を見るよう言われることも多いと思います。

参考:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン 改訂第2版

腰痛治療革命

NHKスペシャル 腰痛治療革命(2015.7.12)

そもそも椎間板ヘルニアが悪いわけではない

椎間板ヘルニアは、腰痛や坐骨神経痛(神経根症状)の原因だといわれますが、本当にそうでしょうか?

そもそも、腰痛にしても坐骨神経痛にしても、画像診断で調べることができません。医師にヘルニアの画像を見せて、この患者に痛みはありますか?と質問しても判別はできません。

腰痛や坐骨神経痛は画像所見で何も異常がなくても発症することが知られていますし、椎間板ヘルニアは腰痛のない健常者の76%に見つかったとする世界的に有名な論文もあります。そのため、痛みと椎間板ヘルニアには関係がないという理解が広がってきています。

先ほど椎間板ヘルニアの自然退縮について書きましたが、自然退縮よりも前に痛みが治る場合もあります。椎間板ヘルニアは診断名としては使われますが、痛みの原因を説明するものではありません。

Chemical radiculitis.
1995 Volvo Award in clinical sciences. The diagnostic accuracy of magnetic resonance imaging, work perception, and psychosocial factors in identifying symptomatic disc herniations.
腰椎椎間板ヘルニアの自然退縮機序とこれを利用した臨床応用の開発(加茂整形外科医院より)
一問一答!腰痛のエビデンス(著:菊地臣一 金原出版株式会社)

椎間板ヘルニアは手術が絶対ではない

椎間板ヘルニアの患者280名を対象とした研究によると、手術は保存療法と比べて、術後1年ではある程度の優位性がありましたが、4年後には差がなくなっていました。

椎間板ヘルニアで手術した患者と保存療法の患者を労災補償の有無で分類し2年間追跡調査した研究でも、手術に関わらず症状は改善しており、痛み・復職率・活動障害に差がありませんでした。

このように、ヘルニアは手術してもしなくても改善することが分かっています。手術を決断するのは、他の手段をじっくり検討してからでも遅くはありません。運動、リハビリ、鍼灸、マッサージ、読書療法、ストレスコントロール。方法はいろいろあります。

いずれにせよ、自分で選び、自分で治そうとする姿勢を大切にしていただければと思います。

Lumbar disc herniation. A controlled, prospective study with ten years of observation.
The impact of workers’ compensation on outcomes of surgical and nonoperative therapy for patients with a lumbar disc herniation: SPORT.

参考⇒腰痛改善の基礎知識(まとめ)