痛みがネガティブな気持ちと結びつくと、脳を変化させて痛みが慢性化する。ストレスは腰痛を引き起こし、慢性化のリスクになる。では、うつ病はどうでしょうか。
不安障害とうつ病は筋骨格系疾患を重症化させる
体を動かすと筋肉や関節が痛む。こうした筋骨格系疾患の患者500名を対象に行われた研究があります。
腰痛をはじめとした痛みのある患者を集め、「痛みのみ」「痛み+不安障害」「痛み+うつ病」「痛み+不安障害+うつ病」の4グループに分けます。その上で、過去3ヶ月のうち、痛みのせいで日常の活動(仕事、学校、家事など)が制限された日数を調べました。
結果は、体の痛みだけのグループより、不安障害やうつ病が重なったグループの方が、痛みのために強い活動制限を受けていました。つまり、重症度が高かったといえます。
グループ | 活動障害日数 |
---|---|
痛みのみ | 18.1日 |
痛み+不安障害 | 32.2日 |
痛み+うつ病 | 38日 |
痛み+不安障害+うつ病 | 42.6日 |
不安障害やうつ病が重なっていると、痛みがはるかに強いという関連が見られました。また、生活の質も低くなっていました。
虐待やネグレクトと慢性痛には関係がある
2005年、小児虐待と慢性痛に関する4研究のメタ解析があります。メタ解析というのは、複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析を行うことです。根拠に基づく医療(EBM)の中でも、最も高い根拠とみなされます。
これによると、幼少期に虐待(身体的・精神的・性的)やネグレクト(育児放棄)を受けていた人は、そうでなかった人よりも、成人後の体の痛みや症状が多いことが分かりました。また、慢性痛の患者は、健常者よりも小児期に虐待・ネグレクトを経験した可能性が高いことが分かりました。
虐待やネグレクトは将来のうつ病のリスク要因といわれますが、慢性痛のリスク要因でもあります。心の問題と身体症状は切り離すことができません。
うつ病患者は痛みを予期しただけで扁桃体が活性化
2008年の研究です。うつ病患者15名と健常者15名を対象に、熱刺激と脳の反応をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で調べました。その結果、うつ病患者は痛みを予期しただけで扁桃体が活性化することが分かりました。
扁桃体はネガティブな情動と関わっていて、刺激されるとストレスホルモンを増やして痛みを引き起こすと考えられています。
また、無力感が高まるほど扁桃体が活性化し、痛みや感情を調節する部位(DLPFC)の働きが低下することも分かりました。
うつ病患者は側坐核が機能低下
うつ病では側坐核が機能低下を起こすことも確認されています。うつ病患者16名と健常者15名に、好きな音楽を聞かせて脳の活動を調べたところ、側坐核の活動に大きな差がありました。
側坐核というのは、嬉しいとき、何かを達成したときに活性化する一方で、痛みを感じたときに痛み止めの作用を発揮することでも知られています。その働きが落ちるということは、気持ちがポジティブにならないだけでなく、痛みが強くなるという意味があります。
Brain activation to favorite music in healthy controls and depressed patients.
実は、うつ病に見られるこれらの脳の変化は慢性腰痛の特徴でもあります。つまり、慢性腰痛とうつ病は単に関係があるだけにとどまらず、脳内で同じことが起きていることが分かってきました。うつ病の方に腰痛が多いのもうなずける話です。
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