リストラ

前回、腰痛の危険因子の中で、社会的要因というものが出てきました。「社会」が腰痛のリスクというのはいまいちピンとこない方も多いかもしれません。しかし、文献を見てみるとかなり深い関係があるようです。

リストラで腰痛が増える

フィンランドの地方自治体(ライシオ)で雇用されていた公務員を対象に、人員削減と欠勤の関係について調べました。その結果、腰痛をはじめとした運動器障害による欠勤が、人員削減の実施後2年間で5倍以上に増えていました。

Effect of organisational downsizing on health of employees.

別の人員削減と健康への影響について調べた研究でも、リストラは腰痛をはじめとした筋骨格症状を増やしていました。リストラは、退職した職員だけでなく、リストラされずに済んだ職員にとっても、悪影響があるようです。

Human costs of organizational downsizing: comparing health trends between leavers and stayers.

社会的・経済的な地位が腰痛に影響する

1958年に生まれた時点から45歳になるまで、つまり45年間追跡調査をしたというイギリスの研究があります。それによると、45歳の時点における腰痛をはじめとした筋骨格系症状の罹患率は、社会的地位が低いほど増加していました。社会的地位が最も低い人は、慢性疼痛のリスクが3倍近くに上がりました。

The influence of socioeconomic status on the reporting of regional and widespread musculoskeletal pain: results from the 1958 British Birth Cohort Study.

社会的な状況と腰痛が関係する理由

社会的要因が腰痛を引き起こすのは、それがしばしばストレスの元になるからです。ストレスは心身に影響して緊張状態をつくり、痛みを引き起こしたり、痛みを治りにくくしたりします。

痛みを感じるのは最終的には脳です。脳がなければ痛みもありません。事故などで手足を失った人は、幻肢痛といって、ないはずの手足に痛みを感じることがあります。痛みを感じるメカニズムにおいては患部すら必須ではありません。

脳は痛みを感じるとき、体の痛みと心の痛みをそれほど明確に区別しているわけではありません。むしろ、心の痛みを体の痛みと同じように扱っていますし、痛みという体験はそもそも心と体の痛みを両方含んでいると考えることができます。「病は気から」といいますが、心と体は痛みにおいても密接な関係にあります。

働くことが治療にもなる

体に痛みがありながらも仕事を続けている人達にインタビュー調査を行った論文があります。その中で、「治療として働く」という考え方が出てきます。働くことが喜びにつながる、働くことがエネルギー源になる。そんな職場は「癒やしと回復のための場所」にもなるというのです。

Staying at work with chronic nonspecific musculoskeletal pain: a qualitative study of workers’ experiences.

仕事はつらいこともあります。それは社会的ストレスとなって、腰痛を引き起こすかもしれません。しかし、うまく折り合いをつけることができれば、癒やしの場になる可能性もあるようです。

ストレスが腰痛のリスクであるということは、幸福度を高めることが腰痛対策になるということでもあります。

参考⇒腰痛の原因と治し方(まとめ)