これまでの記事でも少しずつ触れてきましたが、痛みの治療として運動療法があります。しかし、運動(エクササイズ)が治療になるというのは、いまいちイメージがつきにくいかもしれません。
一昔前は、腰痛といえば安静ばかり言われていた時代もありますし、腰に負荷をかけて大丈夫なのかと心配な方もいらっしゃるでしょう。
しかし、ちゃんと運動の効果は確認されていますし、むしろ、運動ほど健康に良いものは他にないのでは?と思えるほどです。
注意:運動療法が効くのは慢性痛です
痛みが出てから3ヶ月以上過ぎたものを慢性痛といいます。腰が痛い場合は慢性腰痛といいます。普通ケガをしても、3ヶ月も経てばまず治るわけですが、なぜか治らない不思議な痛み。この慢性痛に運動が良いといわれています。
痛みだして日が浅く、痛みも強い状態で無理やり運動しろという話ではありませんので、その点はご安心ください。
慢性腰痛に運動が効く
運動療法は12週以上続く慢性腰痛の痛みを減らし、機能を改善させる。
Systematic review: strategies for using exercise therapy to improve outcomes in chronic low back pain.
腰痛患者を18ヶ月にわたって追跡調査したところ、腰ばかり鍛えるよりも、いろいろな運動をした方がよいことが明らかに。
Effects of recreational physical activity and back exercises on low back pain and psychological distress: findings from the UCLA Low Back Pain Study.
運動すると慢性腰痛が改善する。しかし、腰だけ鍛えればよいわけではないようです。腰の運動ばかりしていると、かえって腰痛が気になり、脳が痛みに敏感になる可能性があります。
「腰のために運動する」のではなく、「楽しいから運動する」「健康にいいから運動する」と考えてみてはいかがでしょうか。
運動すると痛みを感じにくくなる
運動すると痛みが減るのは、脳が痛みを感じにくくなるからです。「腰が弱いから鍛えよう」という話ではないのがポイントで、鍛えるべきは脳なのです。
有酸素運動や筋力トレーニングをすると痛みを感じにくくなりますが、この反応には下行性疼痛抑制系が関わっています。
Mechanisms of exercise-induced hypoalgesia.
下行性疼痛抑制系というのは、脳が持つ鎮痛システムの一つです。運動をすると、その作用によって痛みを感じにくくなり、腰痛をはじめとした慢性痛の改善に役立ちます。
痛みがなかなか治らなくてお困りの方は、ウォーキングなどの軽い運動からはじめてみてはいかがでしょうか。
参考⇒痛みはどこで感じるの? 脳のペインマトリックスと鎮痛機構
慢性腰痛に運動が推奨されている
日本の腰痛診療ガイドラインでは運動療法について「慢性腰痛(3 ヵ月以上)に対する有効性には高いエビデンスがある.」として効果を認めています。
腰痛診療ガイドライン 2012
海外のガイドラインを見ても、慢性腰痛の治療法として運動が推奨されています。ガイドラインはかなり信頼性の高い情報源ですので、試してみる価値は十分にあります。