腰痛改善は安心感から

安心する女性

当ブログの腰痛記事は、色々な切り口で書いてはいますが、結論としては次の2点になります。

・多くの腰痛は心配いらない
・体を動かそう

これは腰痛を勉強すると必ず出てくる常識のようなもので、特別なことではありません。

WHO(世界保健機関)が2019年に公開した解説を見てみましょう。

「多くの患者に十分な腰痛ケアを行う第一ステップは、活動を続けるためのアドバイス、腰痛の良性に関する教育、および深刻な病状がないという安心感を提供することです。
(これらは)すべてのガイドラインで推奨されています。」※1

続く第二ステップでは治療の選択肢が示されます。

腰痛は治療を始める前に、「活動的であり続けるためのアドバイス」「安心感の提供」が必要なのです。そうすることで腰痛が改善しやすくなるからです。

痛みによって不安・恐怖をつのらせると、それまで出来ていた活動ができなくなるばかりか、脳が過敏になり、よけいに痛みが悪化することが知られています。

しかし、まだ国内では難しいのかもしれません。日本腰痛診療ガイドライン2019では、活動性維持についてはかろうじて記載があるものの、安心感の提供にはほぼ触れていません。

「放っておいたら必ず悪化する」「○○をしてはいけない」といった不安を煽る先生はまだまだいらっしゃる様子。私のところにも、こうした相談が寄せられています。

画像所見は腰痛とは関係ない

筋骨格系疼痛障害の第一人者であるピーター・オサリバン教授は、次のように解説します。※2

「腰痛についてわかっていることは、 深刻な場合は1%しかないということです。例えば、腫瘍・骨折・炎症性疾患などです。そして椎間板突出といった、神経の圧迫が 関与している場合はたったの5%です。

90~95%の腰痛では、画像による診断ができません。しかし、現在われわれが抱えている問題は、 50年前であれば腰痛症や腰痛、腰椎捻挫と呼んでいたものが、今では非常に感度の高いMRIのような機器があるため、ほとんどの人に存在している、 いわゆる「異常所見」を見つけてしまうのです。

脊椎をスキャンすれば,90%の人で椎間板が変性しています。また、45%の人で椎間板は膨隆・突出しており、20~30%の人で椎間板の突出や 線維輪の断裂,椎間関節炎などがみられます。

ですから、5%のケースを同定するために、腰痛はこれらの画像所見によって引き起こされているという大規模な信仰を我々は患者に対して作り出してしまったのです。しかし、これらの所見は実際には正常で、 腰痛を予測する因子ではありません。」

腰痛は医原病かも?

ピーター・オサリバン教授は、とある論文(※3)を取り上げ、腰痛は医原病の可能性があることを指摘しています。

オーストラリアに住む、慢性腰痛を持つアボリジニの人々(32人)を対象に調査を行いました。

彼らのほとんどは、慢性腰痛は背骨の異常のせいだという信念を持っていました。その信念は、医療関係者からのアドバイスと、画像検査によるものでした。

腰痛についてネガティブな信念を持つ人々はつらい腰痛を抱えており、逆に腰痛の軽い人々はポジティブな信念を持っていました。

腰痛は、部分的には医原性の可能性があることが示唆されました。

論文は、医療従事者は慢性腰痛の将来について、ポジティブな信念を持てるよう、コミュニケーションを取ることが課題だとしています。非常に示唆に富んでいますね。

知識を武器に立ち向かう

これを読んでいるあなたは、今どんな状態でしょうか。これまでに、医療を利用して、どんな体験をされたでしょうか。

もし万が一、ネガティブなメッセージの影響を受けてしまっていたら、ぜひ知識を武器にしてください。不安を鎮める方法のひとつは、「この場合は不安に感じる必要はない」という、知識を持つことです。

最後に繰り返しますが、腰痛改善のファーストステップは、安心感と活動性の維持です。

参考になりましたら幸いです。

<参考文献>

※1 Care for low back pain: can health systems deliver?/WHO

※2 Back pain – separating fact from fiction – Prof Peter O’Sullivan

※3 Disabling chronic low back pain as an iatrogenic disorder: a qualitative study in Aboriginal Australians