ストレス
体の痛みは、痛みの発生部位の問題だけでなく、脳が痛みを受け取る際の増幅度合いも重要になります。

体のどこかで発生した痛みは、電気信号として神経を伝わり、脳に届きます。このとき、脳は痛みをそのまま受け取るのではなく、小さくボリュームダウンして受け取る作用を持っています。ところが、脳の働きに異常があると、痛みを逆に増幅して受け取ってしまう場合があります。

痛みの増幅は特に慢性痛で起こりますが、脳が痛みを増幅して受け取ってしまう背景には何があるのでしょうか。

ここで、心理社会的因子というキーワードが出てきます。

心理的な要因、社会的な要因が痛みの強さと関わっていることが近年の研究で明らかになりました。ストレスや社会とのつながり、もっといえばその人が幸せかどうか。これが痛みと関係するというのです。ちょっと不思議な感じがするかもしれませんが、非常に大切なポイントです。

痛みとは情動的体験である

痛みとは、「実際に何らかの組織損傷が起こったとき、または組織損傷を起こす可能性があるとき、あるいはそのような損傷の際に表現される、不快な感覚的・情動的体験」と定義されます。(国際疼痛学会の定義)

単なる感覚ではなく、情動と結びついているのがポイントになります。情動とは、いわゆる快・不快といった、生命の根源的な感覚です。

体の中で、最終的に痛みを感じるのは脳です。では、脳のどこに痛みを感じる部位があるのでしょうか。脳の中には、例えば視覚情報を受け取る視覚野であったり、聴覚情報を受け取る聴覚野といった部位があります。しかし、痛覚野はありません。痛みは脳のどこか一部分で感じ取るものではないのです。

痛みを感じるとき、脳のペインマトリックスと呼ばれる複数の部位が活動しますが、それらの多くは情動に関係しています。つまり、情動が動いたときに痛みも感じると解釈することができます。

扁桃体(ネガティブ)と側坐核(ポジティブ)

脳の中でも注目すべきは扁桃体と側坐核という部分です。

扁桃体と側坐核はどちらも情動に関係している部分です。扁桃体は、怒り、悲しみ、不安、恐怖といった不快な情動と関係します。側坐核は、報酬系といって快の情動と関係しています。

痛みが続くとき、脳では扁桃体が過剰に働き、側坐核は機能が落ちてしまうことが分かっています。つまり、痛みを感じているときには脳のなかでポジティブが弱くなり、ネガティブが強くなっているわけです。こう書くと当たり前のようですが、これがとても大事になります。

ポジティブの効能

例えば旅行に行っている間は痛みを忘れていたとか、映画を見ている間は何ともなかったとかいう経験をしたことがあるでしょう。楽しいとそれだけで痛みが軽くなり、不快だとそれだけで痛みが気になってくる。

情動と痛みは、ほぼイコールといっていいほど密接に関わっているのです。心理社会的因子が痛みを起こすというと難しいですが、幸せかどうかによって痛みが左右されるのは誰でも経験していることです。

ストレスによって扁桃体を刺激すると、痛みは増幅されてしまいます。でも、幸せに目を向けることで痛みを減らすこともできるのです。これは、心の習慣を変えることで痛みに立ち向かえることを意味しています。

参考になりましたら幸いです。

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