最終的に、痛みを感じるのは脳です。脳がなければ痛みもありません。

脳は、神経を通じて体の感覚情報を受け取っています。しかし、ただ素直に受け取っているだけではありません。

音楽のスピーカーのように、感覚を増幅したり、減衰させたりしています。その調節にストレス(心理社会的要因)が影響していることは、よく知られています。

心と痛みの関係を知ることは、痛みの対策を考える上でも重要です。

脳イラスト

痛みに注目すると、もっと痛くなる

注意と感情は痛みに影響しています。

痛みから注意をそらしたり、ポジティブな気分になることで、痛みは低下することが知られています。反対に、痛みに注目したり、ネガティブな気分になることで、痛みは増大してしまいます。

趣味に没頭しているときは平気なのに、手を止めて体を気にすると痛みが強くなる。
大好きな旅行の最中は痛みを忘れているのに、自宅に帰ってくると痛みが戻ってくる。
心地よい絵を見たり、花の香りをかいだりすると、痛みは和らぐ。
怒りや不安にとらわれていると、痛みが気になってくる。

意識が変わると痛みが変わる

こうした痛みの性質は、治療にも応用することができます。マインドフルネス(瞑想)が典型的ですが、痛み以外に意識を集中する練習をすることで、痛みを減らす効果が期待できます。

・目を閉じて、呼吸に集中する。
・目の前の作業に集中する。
・できたことに注目する。
・誰かの行いに感謝する。

痛みが強いときはどうしたって気になりますが、痛みだけに注目しないよう意識しましょう。

・痛いけど、テレビは面白い。
・痛いけど、料理は美味しく作れた。
・痛いけど、今日は嬉しいことがあった。

痛みが最大の関心事だと、脳は「そんなに痛みに興味があるなら、痛くしてやろう」といわんばかりの振る舞いをします。
ならば、すべきことはその逆。

意識的に、痛み以外のことを大切にすることです。

好ましい状況だと痛みが減る

マゾヒストを対象に行われた興味深い研究があります。

マゾヒストは、被虐的なシチュエーションだと痛みを感じにくくなりますが、感情的な背景なしに痛みを与えたところ、普通に痛いだけだったというのです。

(その人にとって)好ましいシチュエーションだと痛みを感じにくくなる、というのがポイントです。その意味では、趣味に没頭したら痛みが減るのと同じ話です。

別にマゾヒストになる必要はありませんが、脳にはそれだけのポテンシャルがあることを知っておいて損はありません。

痛みに注目して悪化させるのも、好きなことに注意を向けて痛みを減らすのも、自分次第なのです。

参考になりましたら幸いです。

参考文献
痛みと情動
Contextual modulation of pain in masochists: involvement of the parietal operculum and insula