これまでの記事で、腰痛の古い常識がどう変わったかについてはかなり説明ができたと思っています。

腰痛は骨の異常や姿勢といった構造的な問題ではないこと。心理社会的ストレスが影響すること。慢性化には脳の変化(中枢性感作)が関わっていること。腰への負荷を怖がる必要はないこと、などです。

ですが、まだ肝心な疑問に答えていません。
「腰痛の原因は何?」という疑問です。

私もできることなら「腰痛の原因はこれです!」と断言したいところではありますが、これがそう簡単にはいきません。しかし、そうも言っていられないので、私が比較的納得している理論を2つご紹介するところから始めます。

腰痛の原因を筋肉に求める

・TMS理論

アメリカのジョン・サーノ博士が提唱した理論で、TMSとは「緊張性筋炎症候群」のことです。心(感情)によって自律神経系を介して、軟部組織(筋肉・神経・靭帯)に酸素欠乏が起こり、痛みが発生するという理論です。抑圧された感情に気づくことで痛みから解放されると考えるのが特徴です。
参考:「サーノ博士のヒーリング・バックペイン」(春秋社)

・MPS理論

MPSとは「筋筋膜性疼痛症候群」のことです。ジャネット・トラベルとデイヴィッド・サイモンズによって提唱されました。こちらは筋肉のスパズム(けいれん)によって痛みが起こるという理論で、トリガーポイントなどで筋肉のしこり(索状硬結)を緩めて治療します。
参考:「トリガーポイントブロックで腰痛は治る!」(風雲社)

どちらの理論も筋肉が痛みの発生源であるという点で共通していますし、酸素欠乏が進んだ先にスパズムがある、もしくは酸素欠乏とスパズムは同時に起こりうると考えれば、よく似た理論であるといえるでしょう。

しかし、です。この2つの理論だけで腰痛の全てを説明できるかといえば、できません。

腰痛の原因を一つに絞り込める状況ではない

これまでに記事にしてきたように、痛みは単に心の問題だけではなく、社会的な背景まで含めて考える必要があります。腰に全く問題がなくても、ストレスによって脳の感受性が変わればそれだけで痛みを感じます。

腰痛は単純な炎症だと見るべきではありませんが、例えば微細な慢性炎症(インフラマソーム活性)や髄核由来の化学物質による炎症(Chemical radiculitis.)、脳内神経炎症(ミクログリア活性)などの研究が行われています。

骨の問題にしても、ひとまず「画像診断で腰痛を知ることはできない」ということはできますが、骨の研究が終わったわけでは全くなく、整形外科系の医学誌を開けば、新しい検討・研究が行われている様子が伺えます。

腰痛はまだ、原因を一つに絞り込める状況ではありません。むしろ、これら大小様々な要因が影響しあい混ざりあい、腰痛という複雑で多彩な症状を生み出しています。

安易な結論・断言にはご注意ください

腰痛の原因を探るのは、ミックスジュースの材料を調べるのに似ているかもしれません。それこそ、うーん・・イチゴは入ってる・・しかしクランベリーの可能性も・・分量は・・というような感じで、個別に詳しく調べ、関連の深そうなものを洗い出し、推理していく必要があります。

「腰痛は○○が原因だった」「○○を改善すれば腰痛は治る」という情報は出回りすぎるくらい出回っていますが、いってみれば「ミックスジュースの材料はバナナだった。バナナの成分を抜けば水になる」くらい極端な主張です。それ以外を無視して大丈夫ですか?と言いたくなります。

繰り返しますが、腰痛は複雑です。簡単に原因を特定できるものではありませんし、今もなお世界中で研究が続けられていて、新しい事実と、新しい謎が生まれ続けています。分かりやすく断言している情報は、疑ってかかるくらいで丁度いいのです。

しかし、不安になる必要はありません。腰痛は対処さえ間違えなければ十分に治る可能性があります。まずは情報を知ること、考え方を少し変えてみることです。

ミックスジュース

参考⇒腰痛の原因と治し方(まとめ)