腰痛だからレントゲンを撮る時代は終わろうとしています

腰痛の考え方は、昔と今とでは大きく様変わりしました。年間200万本も発表されるという医学論文により、過去の常識はどんどん覆っています。

例えば、骨の心配はほぼいらなくなりました。骨の異常が腰痛の原因とはいえなくなったという話はこれまでも繰り返してきましたが、その流れの中で必要性が下がっている検査方法があります。レントゲン、MRI、CTなどの画像診断です。

レントゲンが必要なくなってきている。これも大きな変化の一つです。

ほとんどの腰痛は危険性のない安全なものです。画像診断で見つけることができる異常は、見つけても見つけなくても治療の役には立たないものばかりです。問診で病気の可能性がないかチェックしさえすれば、あとは心配いらない腰痛なのです。

レントゲンを撮った方が安心という方もまだまだいらっしゃるかもしれませんが、レントゲンを撮っても腰痛が治る速度は変わりません。実際に、レントゲンを撮って治療したグループと、レントゲンを撮らずに治療したグループで、治り方を比較した研究があるのですが、どちらも差はありませんでした。

撮っても撮らなくても同じように治るならば、医療被爆のリスクがある画像診断は必要ないと判断されるわけです。それどころか、中にはレントゲンを撮った方が患者さんの不安を煽ってしまって良くないという研究もあります。

画像診断によって病名がつくと、ただの腰痛を実際よりも思い病気だと考えてしまい、その日から具合が悪くなるケースがあります。病は気からとはいいますが、悪い方に考えると本当に悪くなってしまうのが腰痛です。

指針の策定委員会のメンバーである福島県立医大の矢吹省司教授(整形外科)の話
 患者が望むこともあり、現状では約8割で画像検査をするが、痛むからといって、画像で原因が分かることは実は多くない。単に加齢で起きている骨や神経の変化を画像で患者に示して「だから状態が悪いんだ」と思い込ませるのは逆効果だ。慢性腰痛では、深刻に考えすぎて安静にするよりも、体を動かしたほうが症状が軽くなる可能性が高い。
腰痛にストレス関与 安静、有効と限らず 学会が診療指針 日本経済新聞より

腰痛だから鎮痛薬でもありません

そしてもう一つ、大きな変化が出てきています。これまで、腰痛の治療には鎮痛薬が使われることが多かったのですが、その牙城が崩れようとしています。

何度かご紹介した、アメリカ内科学会の腰痛治療ガイドライン2017です。それまでは、第一選択が鎮痛薬だったのですが、覆りました。なんと、鍼灸をはじめとした保存療法を先に行ない、それで効果が不十分な時に鎮痛薬を使うように勧告しています。

なぜこんな判断になったのかと引用論文を見てみたら、鍼灸と鎮痛薬の効果を比較した研究において、鍼灸の効果が上回ったからでした。しばしばプラセボ効果と差が出ないと言われてきた鍼灸ですが、科学的手法によって比較すると鎮痛薬を上回っていました。

副作用などのリスクがほぼなく薬よりも効くとなれば、鍼灸が推奨されるのも納得です。しかし、この内容を内科学会が発表したというのは驚きではありました。

このガイドラインが更新される前は「非推奨」だった鍼灸が、更新後は「強く推奨」に変わりました。これは腰痛に対して鍼灸を行う上で、非常に強いエビデンスとなります。

腰痛だからとすぐ鎮痛薬を飲むのではなく、鍼灸や運動を試してみることをお勧めします。

Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians.

驚く人