腰痛のほとんどは6週間以内に自然に治っていく傾向がありますが、一部(5~20%)は痛みが長引いたり、再発を繰り返すこともあります。
治りやすい腰痛と、治りにくい腰痛。
その違いはどこにあるのでしょうか。
答えは、心理社会的要因です。
腰痛は、体の問題だけじゃない
治りにくい腰痛というと、ひどいケガや病気を想像する人が多いかもしれません。しかし、多くの腰痛はケガでも病気でもありませんし、ケガや病気の度合いで痛みが決まるわけでもありません。
戦争で大怪我をしても痛みを訴えない兵士、ひどい骨の異常があっても元気な人など、いくらでも例はあります。体のことだけ考えていても、痛みの全体像は見えてきません。もう少し、別の視点が必要です。
生物心理社会モデル
生物=体の状態から痛みを考える
心理=心の状態から痛みを考える
社会=その人をとりまく社会から痛みを考える
3つの角度から考えましょう、という話ですね。
痛みは、体が20%・心が50%・社会が30%のように、複数の問題が重なって起こると考えられます。中でも心理社会的要因(ストレス)は痛みを治りにくくすることが知られています。
思い切って単純化します。
治りやすい腰痛は心理社会的要因が小さい
治りにくい腰痛は心理社会的要因が大きい
体も大事ですが、心はそれ以上に大事かもしれません。
破局的思考が強いと痛みには逆効果
破局的思考とは、次のような悲観的な考え方のことをいいます。
「腰が痛い。なんだこれは、私は死んでしまうのではないか。怖い。体のどこかで致命的な問題が起きているに違いない。最悪だ、きっともう治らない。」
痛みのことを繰り返し考える(反芻)
痛みに抗うことはできないと考える(無力感)
痛みの強さや影響を過剰に捉える(拡大視)
すると、考えた通りに、痛みは長引き、時に悪化することもある。なぜ悲観的に考えると痛みが長引くのかというと、心の痛みも体の痛みも脳にとっては同じことだからです。
その反対に、破局的思考が減ると慢性痛が改善することも分かっています。考え方のクセに気づき、落ち着いて考えられるようになると、痛みは治りやすくなります。
自己効力感を高める
歩いて遠くまで出かけよう。さて、自分はどこまで行けるだろうか?10kmくらい?いやいや、20kmでもいけるんじゃないか。このような、「自分はこのくらい出来るだろう」という見積もりのことを、自己効力感といいます。
これが痛みについても重要だといわれています。
(痛くても)これくらいは対処できる
(痛くても)これくらいは達成できる
一種の自信ですね。この感覚が痛みに立ち向かう力になります。
自分はここまでできる。だったら、もう少しできるんじゃないか。
不安は痛みの悪循環の入り口ですが、その反対に、自己効力感を高め、落ち着いて対処できるようになると、回復へ向かう道が見えてきます。
そのためには、自分の思考のクセに気がつく必要もあるでしょうし、小さくても達成したことに目を向ける必要もあるでしょう。
「なんだ、(痛くても)自分は家事をできてるじゃないか」
痛みに注目するのではなく、できたことに注目するのが第一歩です。
参考になりましたら幸いです。
参考文献
慢性腰痛の新たな治療戦略 —Cognitive Functional Therapyの紹介—
痛みの認知面の評価:PainCatastrophizingScale日本語版の作成と信頼性および妥当性の検討
- Tags
- 腰痛