そのむかし、病院に腰痛の患者さんがくると、医師は懸命にどこか悪いところがないか探しました。腰が痛いからには、どこかに必ず健康な人と違うところがあるはずです。そこを見つけ出し、正常に戻せば腰痛は治るはず!
医師たちはレントゲンを駆使して異常を探し出し、さまざまな治療を生み出して腰痛を治療しました。そうした流れの中で、腰痛は背骨の異常が原因だという考えが主流になっていきました。椎間板ヘルニアや腰椎すべり症などは、その代表的疾患名といっていいでしょう。
ところがです。今から50年ほど前、腰痛のない健康な人も対象にした調査が行われました。その結果は驚くべきものでした。腰痛のない健康な人にも、腰痛のある人と同じ割合で、ヘルニアなどの背骨の異常が見つかってしまったのです。
これでは、腰痛と背骨の異常は何の関係もないことになってしまいます。実際ほとんど関係ないのですが、この事実は医師たちによって否定され続けてきました。骨が変形したり、椎間板が神経を圧迫したりしているのに、痛くないはずがない。当時は多くの医師がそう考えていました。
しかし、その後も調査は行われ、同様の結果が出されてきました。医師たちも、次第にこの事実を認めるようになりました。現在では、背骨の異常の多くは病的なものではなく、顔のシワと同じように、自然に起こる変化だと考えられています。
ただ、こうした腰痛の新しい認識は、まだまだ日本では浸透しているとはいえない状況です。これには理由があります。重要な論文は真っ先に英語に翻訳されるので、最新の医学は最初に英語圏で広がるという事情があるからです。日本に浸透するのは、どうしてもその後になります。
いま、日本の医学は腰痛の認識について、書き換えが行われている真っ最中なのです。
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