私が鍼灸師を志した頃、一つの目標を立てました。「カゼを治せるようになろう」
肩こり腰痛に鍼灸が効くのは、理屈から考えてもすぐ分かることでした。肩こり腰痛は筋肉がこり固まっているのが原因。鍼をすれば血行が良くなるので、肩こりも腰痛も良くなる、というシンプルな理解です。
しかし、どうしてカゼが鍼灸でよくなるのかは、当時はイメージできていなかったのです。東洋医学をきちんと理解すれば、カゼも治せるようになるだろう。そう考えた上での目標でした。
そんな第一目標ですが、思いの外早く達成できてしまいます。伝統的に伝えられているカゼの治療穴が、そのままで効果を発揮してくれたからです。では、それで東洋医学をよく理解できたかというと、まだまだ入り口でした。
さて、その頃。新しい目標といいますか、課題が生まれていました。簡単だと思われた、肩こりや腰痛です。
肩こり腰痛の治療は、具合の悪い所=筋肉の硬結(こり)に鍼をするだけでは不完全だったのです。また、一度は改善しても、すぐ元に戻ってしまうケースもありました。これを解決するには、こりや痛みを引き起こす原因に目を向ける必要がありました。
諸悪の根源=ストレス
こり・痛みの原因。それは何といってもストレスです。
テレビやインターネットを見ていると、体のゆがみが諸悪の根源に思えてきますが、そんなことはありません。健康な人も多かれ少なかれ全員ゆがんでいます。
利き腕は反対の腕より長くなりますし、肝臓は右にしかありません。心臓は左に片寄っています。左右で体の重さが違うので、それを支える背骨も微妙に湾曲するのが普通です。多くは右肩が下がり左肩は上がり、骨盤は右が上がって左が下がり気味になる。それが正常です。
気持ちとしては、左右対称に魅力を感じるのは仕方ないと思うのですが、医療として重要なポイントは他にあります。ストレスです。
ストレスが体におよぼす悪影響は強烈です。少しの緊張だけでも、肩や腰はガチガチに固まってしまいます。まだ軽いうちはストレスから開放されればコリもほぐれますが、ストレスが慢性化してくるとほぐれなくなります。自分自身ではストレスを感じていないつもりでも、体はストレス反応を止めてくれなくなります。
このストレスを軽減することが、その後の大きなテーマになりました。