疑問

さて仮にですが、健康食品Zという商品があるとしましょう。

ある日、テレビ番組で「健康食品Zは健康に良い!」と紹介されました。紹介していたのは医師で、「私の経験からいって間違いない」と断言しています。さて、この医師の言葉は信用していいのでしょうか?

答えは、「全く信用できない」もしくは「ほとんど信用できない」になります。

医師が紹介しているわけですから、一見信じても良さそうです。しかし、注意していただきたいのは、健康食品Zを勧める根拠の部分。「私の経験からいって間違いない」と発言していますね。これは、エビデンスレベルが低いのです。

エビデンスとは、効果を客観的に示す研究結果のことです。科学的根拠と訳されます。このエビデンスには段階があって、信憑性の高いものから以下のように分類されています。

エビデンスレベル

I システマティック・レビュー/ランダム化比較試験のメタアナリシス
II 1つ以上のランダム化比較試験
III 非ランダム化比較試験
IVa 分析疫学的研究(コホート研究)
IVb 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
V 記述研究(症例報告やケースシリーズ)
VI 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

この中で、先程の医師の発言が当てはまるのは、一番下の専門家個人の意見です。エビデンスとしてはかなり弱い部類です。

テレビの健康情報はつい信じてしまいそうになりますが、実は鵜呑みにするのは危険な情報もたくさん含まれています。その情報は何を根拠に言ってるのだろう?と考えることは、惑わされないために必要なことです。

他の項目についても少し触れておきます。

分析疫学的研究(コホート研究)は、特定の条件に当てはまるグループと、そうではないグループを一定の期間追跡調査して、影響を調べる研究です。

ランダム化比較試験(RCT)とは、治療法などの効果を調べる方法で、その治療を行うグループと、そうではないグループに分けて効果を比較します。その際に、被験者をどちらのグループに分けるかをくじ引きなどで振り分けるのが「ランダム化」です。

ランダム化比較試験はエビデンスレベルが高いのですが、個々の研究結果にバラつきが出ます。そのため、複数の研究を集めてバラつきを取り除き、分析を行うシステマチックレビューは、非常に強いエビデンスと見なされます。

人間以外での研究結果に注意

昨今、動物実験の段階ですぐに「○○に効果的」といった記事が書かれてしまうケースは非常に多いです。マウス・ラットでの実験は、人間で臨床試験する前にはよく行われます。同じ哺乳類なので、人間と同じか近い結果が得られることを期待しているわけです。最低限の安全性が見込めるかどうかを知る上でも大切です。

しかし、動物実験で良好な結果が得られたからといって、人間でも同じ結果が出るとは限りません。いや、むしろ人間で臨床試験をしてみたら、全く効果がないということも珍しくないのです。同様に、試験管の中だけで行われた実験(インビトロといいます)も鵜呑みにすべきではありません。

人間での試験でも、被験者が少なすぎたり、企業の宣伝になっていたら注意

人間でのしっかりした臨床試験に見えても、実はよく見たら被験者が10人程度だったりすることがあります。こうした試験は予備試験などで目にすることがありますが、人数が少なければそれだけ偶然の影響が大きくなってしまいます。効果があるように見えても、たまたまかもしれないのです。

また、企業が自社商品を売り込むために出している研究にも注意が必要です。何パーセントの効果と書いていても、肝心の論文がどこにも示されていなかったり、論文を間違った解釈で紹介していることもあります。利益相反の有無にはご注意ください。

参考になりましたら幸いです。