人は順応という力を持っています。順応とは、慣れることです。
仕事に慣れる。新しい人間関係に慣れる。生活パターンの変化に慣れる。基本的には良い方向に作用するのですが、ときどき慣れることによる弊害も出てきます。
例えば、睡眠時間が少ない生活が続くと、だんだんとその状態に慣れていきます。いつも眠たい。しかし、その状態に慣れてしまうと、自分が眠たいことに気が付かなくなります。もしくは、眠たいことを問題だと感じなくなります。本来の80%しか力を発揮できていなくても、いつも80%ならそれが普通だと感じるようになります。
体のこりもそうです。どこか体がこっていて重だるい。最初ははっきり分かるのですが、しばらく同じ状態が続くと感覚はマヒしてきて、「そういえばこってるけど、いつもこんな感じだし普通」となります。
こりは体からの異常サインですが、慣れてしまうと気がつかなくなります。こりはやがて痛みに変わりますが、痛みにも慣れてしまって、このくらい平気だと放置してしまうケースは多く見られます。
多かれ少なかれ、全ての人が何かに順応し、何かに気付いていません。問題が起きていなければ大丈夫といいたい所ですが、ある日突然に体調を崩して慌てることがあります。
放置して悪化する前に
例えば、手にしびれが出て当院に来られた患者さん。手がしびれたのはごく最近でも、肩こりを20年放っておいたとか、昔から首が痛かったけど気にしていなかったとか。話を聞いてみると、長い間体の不調をそのままにしていたケースは非常に多いのです。
例えば、坐骨神経痛が出て相談に来られた患者さん。話を聞いてみると、ずっと腰痛だったのですが、これといった治療をしてきませんでした。このくらい普通だと思っていた。それが突然こんなことになるなんて。
表に出てきた新しい症状を治すためには、その下地となっている症状が改善する必要があります。鍼灸の有名な書物には、「病は古いものから治療せよ」と書かれています。新しい症状だけ治療しても、すぐ再発してしまうのです。
肩こりの段階で、または腰痛の段階で治療できていれば、治療にかかる時間はずっと少なくてすみます。慢性の症状がこじれて新しい症状が出た場合、治療にはそれなりに時間がかかります。
いかなるときも、治療の原則は「早期発見、早期治療」です。長い間放っておいて良いことはありません。