痛みを予防したり、慢性痛を改善したりする目的で運動は有効です。ただ、急性期の痛みについてはその限りではないようです。
無理にストレッチをして悪化した事例
70代の男性。
車のタイヤ交換をした後に腰に痛みを感じました。一度当院で治療して、軽減を確認。ただ、まだ痛みは残っていました。
ところが、痛みがあるにも関わらず、自宅で無理にストレッチをしたそうで、痛みが悪化して2日後に再来されました。何でも、奥様が「ストレッチがいいから」と無理にストレッチを勧めたそうです。。
ストレッチというのは、痛くない範囲で、きもちいい範囲で行う分にはとてもいいのですが、痛いのに無理に伸ばしてもいいことはありません。健康な人でもそうなのに、痛みが残っている状態で無理やり行うべきものではありません。
急性痛と慢性痛は別物です
急性痛と慢性痛の違いについて、セルフケアも含めて確認してみましょう。
痛みが出てから4週間までのものを急性痛、4週間以上3ヶ月未満のものを亜急性痛、3ヶ月以上経ったものを慢性痛と分類するのが一般的かと思います。痛みの強さではなく、発症してからの日数で急性や慢性を分けています。
急性痛は患部に何か問題がある
痛みが出てすぐの場合は、痛いところに問題があることが多くなります。主に筋肉の血行不良・酸欠・緊張・けいれんなどによる痛みが多くなります。いわゆる「筋肉痛」や「痛めた」という状態をイメージしていただければいいでしょう。
この時期のセルフケアとしては、汗をかかない程度に温めること。そして、日常の活動を可能な範囲で維持することです。痛いからといって、横になって安静にしてしまうのは、かえって治りが遅くなります。
昔は痛かったら何でもケガとして対処していましたが、今はほとんどの痛みはケガではないことが分かっています。もし、患部を安静にしても痛みが減らなかったり、痛みが強い場合は、整形外科などを受診することをお勧めします。
ただ、動いた方がいいといっても、激しく動いた方がいいわけではありません。あくまで、普通に生活するレベルを維持していただければひとまずOKで、もう少し頑張りたいのであれば「痛くない範囲で」「無理なく」できる運動や体操をしてみてください。
3ヶ月以上続く慢性痛の原因は患部ではなくなる
普通ですと、ちょっとケガをしたとしても3ヶ月もすれば治ります。まして、ほとんどの痛みは肉体の損傷を伴いませんので、ずっと治らないというのは変な話です。痛みが長く続く場合には、患部にはもう原因はないか、あっても問題の中心ではなくなっています。
慢性痛では、脳が痛みを感じやすくなることが問題になります。脳は、神経を通じて身体の痛みを感じているだけではなく、痛みの強さをコントロールする力も持っています。ところが、痛みが続くうちに脳の痛みコントロールが落ちてしまうことが分かっています。
下手をすると、身体に何も問題がないのに痛みを感じることもあるくらいです。アロディニア(異痛症)といいまして、手でかるく触れた程度でも痛みを訴える患者さんがいますが、これなどは慢性痛が悪化してしまった状態です。
慢性痛の場合は、ただ単に日常生活を続けるだけでは改善しづらくなります。まずは医療の力を借りて痛みを減らすことです。もちろん鍼灸治療もオススメです。それに加えて、生活の改善と運動が必要になります。
疲れをとって、軽い運動から始める
慢性痛には運動だといっても、無理をする必要はありません。まず睡眠時間を確保することです。平日にあまり眠れない場合は、休日に長く寝て、睡眠負債を返すことです。いわゆる「寝だめ」はできないといわれますが、過去の睡眠不足を補うことは可能です。健康は夜しっかり寝ないと始まりません。
その上で、軽い運動から初めてみてください。いきなり1日だけ頑張って、疲れて続かないのはよくありません。1日5分のウォーキングでもいいので、まずは継続して続けることです。運動量を増やすのは、後からでも構いません。
生活習慣として長く取り組む意識を持つと、運動は痛みの改善や再発防止に役立ちます。
以上、参考になりましたら幸いです。