前田サトシさん(仮)の場合

運送業の前田サトシさん(仮)は今年4月、初めて腰痛を発症しました。
仕事で重たい本棚を運んだところ、数時間経ってから腰が痛みはじめたのです。

あれー、腰にきてしまった。
あの本棚のせいかな。
特に重たかったしなぁ。

とはいえ前田さんの腰痛はそれほどひどくならず、仕事を休むこともなく2週間ほどで自然に治ってしまいました。

腰痛のことなどすっかり忘れた6月のこと。
再び、重い荷物を運ぶことになりました。
今度は冷蔵庫です。

どうも嫌な予感がしましたが、仕事ですから仕方ありません。
冷蔵庫を次々と運びます。
しかし、最後の一つを持ち上げた瞬間、腰にピシッという痛みが走りました。

最後の最後にやってしまった・・。
動けないほどではありませんが痛みは強く、最後の冷蔵庫は他の人にまかせるしかありませんでした。

腰痛のきっかけは原因のほんの一部

さて、このストーリーですが、前田さんが腰痛を再発した原因は何だったでしょうか?

真っ先に腰痛の原因として考えられるのは「冷蔵庫を運んだこと」でしょう。
いかにも腰に悪そうですし、前田さんは4月にも本棚を運んだ後に腰痛になっています。

しかし、私の考えは少し違います。
「冷蔵庫を運んだこと」は、腰痛のきっかけとなりましたが、原因の一部でしかないと考えます。

爆弾のスイッチを押したら爆発した。
では、爆発の原因はスイッチを押したことでしょうか?
もちろんスイッチを押したから爆発したのですが、そもそもそこに爆弾があったことが問題です。

誰かが爆弾を作り、誰かが爆弾を設置し、スイッチを押したら爆発した。
これ全てが爆発と関係しています。
スイッチだけで爆発のすべてを説明できません。

腰痛も同じです。
重い荷物を持ったことは、きっかけになったかもしれません。
しかし、それだけで腰痛の全てを説明することはできません。

私たちは、ついきっかけに意識を向けてしまいますが、
それは最後の1ピースにすぎないのです。

複数の要因

前田さんは運送業です。
重たい荷物を運ぶことは日常茶飯事ですから、それだけで腰痛になるのなら仕事を続けてこれなかったはずです。
もっと他にも腰痛の要因があるはずです。

では、疲労の蓄積という点ではどうでしょうか。
毎日のように力仕事をしているのなら、疲労がたまっていた可能性はありそうです。

しかし、疲労が原因だとすると、これもおかしなことになります。
前田さんは疲労がたまって腰痛になった。
では、他の腰痛になっていない同僚は疲労がたまっていなかったのでしょうか。
腰痛になる人はみんな疲労がたまっているのでしょうか。

実際、運送業の人が全員腰痛に悩んでいるわけでもありません。
腰痛と疲労が無関係だとはいいませんが、疲労だけで腰痛を説明することも難しい。
もっといえば、仕事と腰痛を結びつけるのも難しいのです。

いや、それは個人差だという意見もあるでしょう。
では個人差って、どこで決まってくるのでしょう。

遺伝子でしょうか。
遺伝子なら、双子は同じように腰痛になるのでしょうか。

成長過程の体験は関係あるでしょうか。
学生時代に運動していた人と、運動していなかった人で腰痛の発症率は変わるのでしょうか。

では、他の要因は・・・もっと他の要因は・・・と考えていくと、実に様々な要因をピックアップすることができてしまいます。
そして、前田さんの腰痛に関係あるものと、ないものを切り分けることは困難です。

腰痛の発症に関わる心理社会的因子

一般的に、腰痛の原因として第一に疑われるのは腰への負担です。
しかし、近年では心理社会的因子=ストレスが腰痛の原因になっているという研究が相次いで報告されています。
腰に同じ負担をかけるのでも、ストレスの有無によって、腰痛の発症に大きな差が出るというのです。

ストレスと一言にいっても、色々あります。

代表的なストレス

  • 家族・知人の死、自分や家族の怪我や病気
  • 結婚、離婚、夫婦別居
  • 就職、失業、転職
  • 社会的な責任の変化、生活状況の変化、労働条件の変化
  • 親戚トラブル、上司とのトラブル
  • 借金、法律違反など

こうしたストレスが解消されないまま積み重なっていくと、腰痛のリスクが高くなります。
そして、積み重なった要因の最後のひと欠片が腰痛発症のトリガーになります。

問題を数えていられるほど人生長くない

クシャミをきっかけに腰痛になる人がいます。
洗面所で顔を洗おうと前かがみになったとき腰痛になる人もいます。
他の要因が何もなく、それだけで腰痛になることはありえません。
しかし、その他の要因は自分では気が付きにくい。

では、腰痛の再発を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。
リスク要因を全て消そうとするのは現実的ではありません。
問題を数えているうちに人生が終わってしまいます。

それよりも、シンプルに予防効果が判明しているアクションをとることです。

腰痛を予防する有酸素運動

腰痛の予防に役立つことが分かっているアクションとしては、有酸素運動をおすすめします。
なぜなら、実際に有酸素運動を取り入れた結果、腰痛の再発率が改善したという報告があるからです。

理想は息が切れる程度の運動を30分、週に3回以上ですが、いきなりそこまで頑張らなくても構いません。

例えば、1日5分でもいいのでエクササイズとしてのウォーキングを行ってみる。
ほんの少しなら誰でもできますし、続ければ自信にもつながります。
少しずつでも始めてみて、慣れてきたら徐々に運動量を増やしていくのがいいでしょう。

他にも色々と方法はありますが、考え方としてはざっくりと大きく、
肉体的・精神的に健康な生活はどのようなものか考えて行動することをおすすめします。
腰痛のためではなく、健康のためにできそうなことを考える方が近道です。

例えば、笑うと健康にいいという話を聞いたことがあるかもしれません。
でも、実際に健康のために笑うように心がけている人は少数派だと思います。

何でもそうですが、やるとやらないでは大きな違いがあります。
そして、続けると続けないでも大きな差が生まれます。

ぜひ、何か具体的な行動を起こしてみて下さい。
私はこの10年間、徒歩中心の生活をしています。
はじめはダイエットのつもりでしたが、今は体調がいいので歩き続けています。
腰痛もありませんし、肩こりも歩いていると自然に治っていきます。

自力で解決できないと感じる場合は、ご相談ください。
一人で全て抱えることが良いとも限りません。

以上、参考になりましたら幸いです。

参考記事:腰痛はクセになる?