以前、科学的根拠について、こちらの記事で触れました。
Q 科学的根拠って何?

こうした科学的根拠を大切にする医療をEBM(evidence-based medicine)といいますが、科学的根拠に基づいてさえいれば良いかというと、そうではありません。例えば、医療者が科学的根拠を振りかざし、治療法を押し付けるような形は望ましくありません。

人ぞれぞれ、環境はさまざまですし、考え方にも違いがあるのが普通です。例えば、手術がベストだとしても、できることなら手術は避けたいという場合もあるでしょう。安静にすべき状態であっても、安静にしているわけにいかないので、無理がきくようにしたいケースもあるでしょう。医療はまさにケースバイケースです。

そうした中、患者さんがどういった流れで現在の状況に至ったのか。いま何に悩んでいて、今後どういう方向へ向かっていくのか。患者さんの物語に着目して、対話しながらすり合わせを行う方法がイギリスで提唱されました。これをNBM(narrative-based medicine)といいます。日本語では物語に基づいた医療と訳されます。現在ではEBMとNBMは医療の両輪ともいわれます。

とはいえ、NBMは特別なことをするわけではありません。対話を通じて今後の方針を決めていくという、当たり前の考え方ということもできます。私も初めてNBMの本を読んだとき、普通のことが書いてあると納得したものですが、普通のことを高いレベルで実践することは簡単ではありません。「方向性は今のままでも間違っていないけれども、もっと頑張らねば」というのが、私の率直な感想でした。

今後とも、精進あるのみです。

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