10年ほど前、私はバセドウ病にかかりました。バセドウ病は甲状腺機能亢進症といって、代謝を高めるホルモンを出す甲状腺の働きが過剰になってしまう自己免疫疾患です。

病名が判明して治療を開始するとき、担当の医師は私にこう告げました。「バセドウ病の治療では、メルカゾールという薬を使います。これは甲状腺の働きを抑える薬ですが、なぜか分かりませんが服用すると半数の人で自己抗体が減ります。そのため第一選択になります。」

つまり、なぜ効くか分からないけども、一定割合で効くことは分かっているので使う、ということです。こう書くと、メカニズムの分からない薬を出すなんて非科学的だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この医師の態度は非常に科学的です。

科学的根拠とは

医学では科学的根拠が重視されますが、科学的根拠とは効果があることを客観的に確認できるということです。効くかどうかが大事という話で、メカニズムの解明については問題にされません。ある薬が効いたという臨床研究があって、それが第三者の検証に耐えうるならば、その薬には科学的根拠があることになります。

医学の世界には、なぜ効果があるのかメカニズムが解明されていない薬や治療法が多数存在しています。メカニズムが判明するまで使えないというルールだと、医療はできることがほとんど無くなってしまいます。そのため、有効性、安全性、副作用などが客観的に確認された薬は、科学的根拠のある薬として使用されます。

良い悪いではなく、医学とはそういうものなのです。(ちなみにバセドウ病は完治しました。)

鍼灸と科学的根拠

では、鍼灸治療はどうでしょう。鍼灸の理論、すなわち東洋医学理論には、科学的な言葉はほぼ出てきません。気や陰陽といった概念論が多くなりますし、経絡や経穴もはっきりと存在を確認することは困難です。東洋医学理論は、科学というよりは、思想哲学の色が強く出ています。(数千年前に生まれたので当然ですが)

しかし、鍼灸を用いるか否かという判断は、科学的に下すことができます。なぜなら、メカニズムや理論が不可解であっても、効果があるかどうかは客観的に、科学的に知ることができるからです。つまり、実際に治療して効くかどうかを確認すればよいことになります。

多くの研究の結果、WHOでは多数の疾患に鍼灸の効果が認められ、ドイツでは公的保険が適用されるまでになりました。疼痛疾患では、通常医療よりも鍼灸の方が有効性が高いという科学的根拠が出てきています。不妊治療の分野でも、今まさに鍼灸は脚光を浴びています。つまり、鍼灸はよく効くのです。

そして、鍼灸がどのように作用するのか、そのメカニズムも徐々に明らかにされつつあります。例えば、脳内血流の改善、βエンドルフィンの分泌、自律神経・ホルモン・抹消循環・免疫系への作用、他にも多数の事実が判明しています。

まとめると、鍼灸は科学的にメカニズムが解明されつつあり、科学的根拠も存在しているということです。

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