どんな治療でもそうだと思いますが、鍼灸治療はとかく神経を使います。マッサージのように握力を使うわけではないので、そんなに疲れないと思われることもありますが、そうではないのです。
とにかく細かい。刺鍼の操作が細かいだけではありません。どこに刺鍼するのかを決めるにも非常に神経を使います。
皮ふ・筋肉・脈 触れ方にも色々あります
例えば、ツボを探すときです。ツボというのは一種の概念ではありますが、そこにあるモノでもあります。皮ふの凹凸だったり、滑らかさだったりを指先で感じ取ることで、見えてくるものがあります。
軽く置いただけでも押さえすぎ
試しに、ご自身の左腕に右の手の平を乗せてみてください。軽く、何気なくで大丈夫です。軽く手を乗せただけですが、よく見ると、この時点で手は腕の皮ふを圧迫しているのが分かると思います。手によって皮ふが押さえられ、少しですが沈みこんでいるわけです。これだと、ツボを探すには少々不利になります。
そこで、ゆっくりと手を上に挙げて、左腕の皮ふから手が離れる直前で止めます。その触れ方、先生によってはゼロ圧とおっしゃっていたりもしますが、その力加減でもってツボを探すわけです。すると、皮ふの硬さ、凹凸、乾燥具合などがよく分かります。これだけでもかなり神経を使うのが伝わるんじゃないかと思います。
皮ふに騙されない押さえ方
もしくは、筋肉の硬い所を探す場合です。指を押し込んで、筋肉の硬い部分を探るわけですが、下手にやると大変に気持ちが悪いことになります。筋肉の上には皮ふがあるわけですが、その皮ふが横滑りして、うまく筋肉を押さえられない、ということがあります。これが患者さんにしてみると、大変に気持ち悪いわけです。
そこで、皮ふの上から筋肉をつかみます。皮ふが動いてポイントがずれないように、上から硬い部分を文字通り、つかみます。すると、皮ふの動きに騙されずに筋肉の状態を見ることができるようになります。これにしても、なんとなくやっていては分かりませんから、意識の集中がいります。
感触から表情を読み取る?
脈診などはさらに細かくなります。ゼロ圧でも見ますし、押し込んでも見ます。いや、「見る」ではなくて「診る」の方が正確だと思いますが、硬い柔らかい、早い遅い、太い細い、滑らかか渋っているか、さまざまな表情を読み取ります。また、ツボに触れることで、脈の表情がどう変わるのか探ります。専門的すぎるので詳細は省きますが、このとき指をどう添えるか、どの方向に向かって押さえるかなど、細かいルールがあります。
少しは神経を使っているイメージが伝わったでしょうか?
刺鍼前にほぼ勝負はついている
患者さんお1人の治療には、およそ1時間かかります。その大部分は鍼を扱っている時間ではなく、どこに鍼をするかという探索の時間です。ツボをどう選ぶかで治療の結果も大きく左右されますから、ここで妥協はできません。(妥協できるところはあまりないですが)
鍼灸治療をすると、身体を使って疲れるのとは違った疲れ方をするものです。その疲れをリセットするために、当院では患者さんを連続で見ないよう、予約時間にインターバルを設けています。治療の精度が落ちてしまわないように、より良い治療のための工夫だと思っていただければ幸いです。