鍼灸には、痛む場所から離れた場所から治してしまう方法が複数あります。

背中の症状をお腹のツボで治したり、体幹の症状を手足から治したりします。そうしたバリエーションの中に、左右を使う方法があります。

右に痛みがあれば、左に鍼をする。左に痛みがあれば、右に鍼をする。巨刺(こし)という方法です。

例えば、今日のとある患者さんです。名前はAさんとしておきます。Aさんは左肩に痛みがあります。手を前から上に上げる動作はこれまでの治療でかなり改善したのですが、手を腰に回す動作をするとまだ痛みが出る状態です。

そこで、左肩の痛む場所をよく確認して、右側の同じ場所に鍼をしたところ、1回で左肩の痛みがなくなりました。Aさんも相当驚いていらしゃいました。

左右のバランスが崩れているときに、痛みのある右側だけで調整しきれないとき、反対側を使って調整したわけです。右10:左10が正常だとして、Aさんは右5:左15になっていたとしましょう。左に刺激して10にしても、右が5のままだとバランスは調っていません。右も10にする必要があるわけです。

ここで、さらに左側を減らして右5:左5にする考え方もあるかもしれませんが、実際には体への負担が大きくなるだけで上手くいきません。反対側に鍼をするのは、意外に思えるかもしれませんが、これで理にかなった治療なのです。