今回は、鍼灸は免疫を高める作用があるものの、免疫が高まると具合が悪くなることもある、という話です。

仮に、風邪を引いたとしましょう。風邪は文字通り、風に運ばれてきた邪=ウイルス(または細菌)が体に入り込んで起こります。このとき、悪寒・発熱・セキ・ノドの痛み・鼻水・鼻づまりなど、様々な症状が出ますが、これらの症状はウイルスと体の免疫が戦って起こる反応です。

例えば発熱するのは、ウイルスの増殖を抑えて、白血球の活動を活発にする意味があります。ノドの痛みは、扁桃腺で白血球がウイルスと戦うときに起きる症状です。やがて、白血球に代表される免疫がウイルスを退治し終わると、症状は出なくなります。風邪が治ったということです。

しかし、ウイルスを退治しなくても、症状を無くしてしまう方法があります。風邪薬です。風邪薬は、風邪のウイルスを退治してくれません。その変わりに、熱を下げ、セキを止め、鼻水を止めてくれます。ウイルスと戦っている最中の免疫にストップをかけることで、症状を止めてしまうのです。

症状が楽になるので、つい風邪がおさまったと考えてしまいますが、ウイルスはまだ残っています。免疫は薬でおさえられているので、ウイルスを退治できないのです。結果どうなるかというと、症状が抑えられる変わりに、治るまでの期間が長引いてしまいます。

鍼灸治療は、風邪薬とは違い、体の免疫を高める作用があります。風邪が治るまでの期間も短くなります。しかし、免疫が活発になるということは、ウイルスとの戦いも激しくなり、症状も強く出るということです。

私の経験では、風邪の引き始めの患者さんに鍼灸治療をしたところ、わずか15分ほどで熱が上がり発汗して、その30分後に解熱してしまったことすらあります。これはかなり極端な例ですが、ただ寝ているよりも早く症状がおさまるようです。

風邪を治すのに、鍼灸はとても効果的だといえます。しかし、最終的にどちらを選ぶかは、患者さんそれぞれの判断にお任せすることになります。なぜなら、翌日に仕事があるのに症状が悪化してしまうのは、たとえ早く治るとしてもデメリットが大きいからです。

当院で風邪の治療をするときは、こうしたメリット・デメリットをご説明した上で、病院へ行かれるか、鍼灸治療を受けられるか選んでいただくことになります。