※ 今回の記事は、リニューアル前のHPに載せていた文章です。少しだけ改変しています。

私の主な治療法は経絡治療といいます。中国の古典医学書、難経(なんぎょう)をもとにした治療法です。簡単にいうと、身体の不調は必ず、気の通り道である経絡に現れます。ですから、逆に経絡を治療することで身体を元気にしようとする方法です。

人体の考え方

西洋医学では、人体は部品の集まりであり、部品の故障が病気だと考えます。ですから病名=部品の名前です。ところが東洋医学では、人体は全体で1つのものだと考えます。それを陰陽(表裏・内外・上下・左右・寒熱・虚実…)や五行(木・火・土・金・水)の性質で分けて捉えます。

まず、人体を気(エネルギー)で出来ていると考えます。ここでは「どんなエネルギーか」を考える必要はありません。気とは、熱エネルギー・位置エネルギー・運動エネルギー・光エネルギー・電気エネルギー・生命エネルギー…等、ありとあらゆるエネルギーをひとまとめにした概念です。
※ここが一番理解されづらい部分だと思いますが、気は東洋医学の大前提で、数学でいう数の概念のようなものですので、これ抜きには説明が出来ません。

この気の塊である身体を表裏に分けて考えます。外から見えるのが表で、見えない部分が全て裏です。裏には臓腑があり、臓腑同士や表裏は経絡でつながっています。経絡とは気の通り道です。気の流れが順調であれば人体は健康ですし、気が過不足を起こしたり、流れが滞ったりすると病(やまい)となり、何らかの症状が現れることになります。ですから東洋医学でいう治療とは、気の調整という意味になります。ちなみに鍼灸は表から、漢方薬は裏から気の調整を行います。

経絡

経絡とは、経脈と絡脈を合わせた言葉です。実際の治療では経脈の治療がメインになります。経脈は全部で12本あり、繋がって1つの輪のようになっています。体表を巡るだけでなく、臓腑とも連絡しています。場所によってそれぞれ、太陰肺経・陽明大腸経・陽明胃経・太陰脾経・少陰心経・太陽小腸経・太陽膀胱経・少陰腎経・厥陰心包経・少陽三焦経・少陽胆経・厥陰肝経と名前が付けられています。この経絡の重要ポイントが経穴(いわゆるツボ)です。鍼灸師は経穴にアプローチすることで気の調整を行います。

臓腑

裏には臓腑があり、五行の性質に分かれます。ここに出てくる臓腑は名前こそ西洋医学のものと同じですが、その働きは大きく異なります。例えば、腎は西洋医学でいう腎臓だけでなく、排泄・生殖機能に加え、呼吸などの働きも持っています。さらに志を蔵するとされ、精神作用を含みます。また耳・骨・髪などとも関係があります。こうした関係は五臓の色体表に表されています。

五臓
五腑 小腸 大腸 膀胱
五竅
五主 血脈 肌肉 皮毛
五支 面色
五季 土用
五方 中央 西
五色
五香 ?
五味
五悪 湿
五精 意・智 精・志
五志
五液
五変 ? ?
五役
五声
五音
五穀
五畜
五菜 ?
五果

また、五行には相生・相克の関係があります。相生関係は別名母子関係ともいい、木から火が生まれるように、新しい性質を生み出す関係をいいます。逆に相克関係は、金属が木を切り倒すように、他の性質を抑制する関係をいいます。この関係を五臓などに当てはめて治療に応用しています。例えば、腎が弱っていれば、その母である肺にアプローチすることで腎を強める、などです。

↓相生関係
sousei

↓相克関係
soukoku

身体と季節との関係

十二経という言葉を聞いて、ピンと来た方もいらっしゃるでしょうが、経絡は季節や時間と関係があります。五行の色体表をご覧いただければ分かりますが、五臓も四季と関係しています。
脾の土用というのは季節と季節の変わり目のことです。また経穴の数は1年と同じく365であるとしています。こういったところからも、東洋医学の考え方が見て取れます。つまり、人体は自然と同じように季節に合わせて変化する、ということです。もちろん、これにズレが生じると病となります。

脈診

鍼灸治療は、経絡を流れる気を調節することで身体を治療します。ですから、十二経の状態を知らなければなりません。その方法の1つが脈診です。脈診は手首の動脈の拍動を診て十二経の状態を判定します。左右それぞれ3本の指で診ますから合わせて6ヶ所、浮かべて診る場合と沈めて診る場合で合計12ヶ所です。これがそれぞれ十二経に対応し、脈の強さや感触の硬さ・柔らかさなどから病態を把握して治療に使う経穴を選びます。

虚実と補潟

生命力が低下したものを虚、亢進したものを実といいます。虚には補法(ほほう)、実には潟法(しゃほう)を行うことでバランスをとります。補法は気を補う、又は気の多い他の場所から少ない場所に運んでくること。潟法は余分な気を散じて平にすることです。こうして十二経の虚実を整えることが経絡治療の第一の目標になります。難経ではこのことを「調気の法は必ず陰陽に在り」といっています。