腰痛になると、痛みの原因は何だろう?どうすれば早く治るのだろう?と考えると思います。
その疑問を解消するために、インターネットで検索する方も多いでしょう。
しかし、ネットには情報が多すぎて、どれを信用したらいいのか分からなかったり、いざ専門家に相談しても意見がバラバラということは珍しくありません。
そこで今回は、医学の専門家が集まって作る世界のガイドラインを参考にしながら、腰痛の分類や治療について見ていきます。
目次
世界の腰痛診療ガイドラインに共通するポイントは何?
世界中で行われている腰痛の研究。その叡智を結集して作られる、腰痛診療ガイドラインというものがあります。
ここでいうガイドラインとは、「医療者と患者さんが、適切な診療の意思決定を行うことを支援する目的で作成された文書」のことです。
何がベストかこれを参考に考えてね、ということです。
ガイドラインを読むと、医学の専門家が何を重視しているのか見えてきます。
世界中で作られている腰痛診療ガイドラインの内容を比較したところ、共通している部分がありました。
腰痛の分類
診断は大きく3つに分類するのが主流でした。
- 病気が原因の腰痛(レッドフラッグ)
- 坐骨神経痛(神経根症状)
- 一般的な腰痛(非特異的腰痛)
オーストラリアとニュージーランドのガイドラインでは、一般的な腰痛と坐骨神経痛を分けていません。
病気の可能性がなければ、一般的な腰痛と同じ扱いです。
病気が原因で腰痛になることは稀ですが、無いわけではありませんので、まずはその可能性をチェックします。
心理社会的要因
心理社会的要因(ストレスなど)を重視するのも世界共通でした。
心理的苦痛、うつ、痛みを過剰に避ける、痛みのことばかり考える、無力感などは、腰痛の発症・再発・慢性化のリスクと考えられています。
カナダとニュージーランドのガイドラインは、心理社会的要因をチェックする方法、チェック後の方針を明確にしています。
腰痛の画像診断
腰痛の画像診断(レントゲン、MRI、CT)については、「日常的な使用を推奨しない」のが世界標準です。
病気の可能性があるときにだけ使うよう制限されています。
画像診断を使わないと体の中のことが分からないのに、どうして推奨されないのでしょうか。
What can the history and physical examination tell us about low back pain?
「腰痛の85%は原因不明である」という形でガイドラインにも頻繁に引用されている論文です。
具体的には、「症状、病理学的変化、および画像診断結果の関連性が弱いため、最大85%の患者に確定診断を与えることができない」と述べています。
画像診断で異常が見つからないのではなく、異常を見つけても腰痛の原因かどうかは分からないというのがポイントです。
例えば、椎間板ヘルニアは健康な人でも76%に見つかるほどありふれた画像所見なので、見つけても腰痛とは関係ないかもしれません。
「原因を特定できないことが多いので、診断努力はしばしば期待外れです。
腰痛のあらゆる場合について正確な原因を探すのではなく、3つの基本的な問いに答えることが最も有用かもしれない。」
- 痛みを起こす深刻な全身性疾患はあるか?
- 外科的評価を必要とする神経学的な損傷はあるか?
- 痛みを増幅・長引かせる心理的な苦痛はあるか?
腰痛の治療
腰痛の治療として、世界のガイドラインが推奨しているのは次のようなことです。
- 患者を安心させる
- 活動を続けることを勧める
- ベッドでの安静は避ける
もしかすると治療に見えないかもしれませんが、腰痛は基本的に自然治癒する傾向があります。
そのため、自然に治るのを邪魔しないことが大切です。
痛みを怖がって普段の活動をやめてしまい、行動範囲が狭まっていく方がずっと問題が大きいのです。
薬の推奨としては、過去にはアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)が第一選択でした。
しかし、2017年アメリカのガイドラインでは、アセトアミノフェンが推奨から外れて話題になりました。
代わりに、薬を使わない保存療法(鍼灸・マッサージ・脊椎マニピュレーション)が推奨されました。
また、3ヶ月以上続く慢性腰痛には、運動療法・認知行動療法なども推奨されています。
2019年に更新された日本の腰痛診療ガイドラインにおいても、アセトアミノフェンは評価を大きく下げています。
まとめ
世界の腰痛診療ガイドラインでは、重い病気の可能性がないことを確認したら、ストレスの影響に配慮しつつ、なるべく普通に生活することを勧めています。
いかなる腰痛も原因を徹底的に調べて診断名をつけて治療すべき、というガイドラインはありません。
この点、患者さんの期待とは違うかもしれませんが、結果的にはその方がメリットが大きいことを医学は明らかにしています。
腰痛を治すためにまず必要なことは、安心と可能な範囲で活動を続けることです。
ガイドラインから逸脱したアドバイスや、安心できない・不安を煽る先生にはご注意ください。
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