痛みが治らない理由:痛覚変調性疼痛

痛みが治らないのはなぜ?

考える女性
肩や腰などの痛みで整形外科へ行ったが、検査をしても特に異常はない。痛み止めをもらったが、飲んでも効いた実感はない。ネットで調べて治療院に通ったが、いつまでたっても良くならない。それはなぜでしょうか?

お答えします。第3の痛み・痛覚変調性疼痛を見過ごされている可能性があります。

3つの痛み

痛みには、次の3つがあります。

  • 体のダメージで痛い→侵害受容性疼痛
  • ケガをして痛むのが典型的です。体が受けたダメージにセンサー(侵害受容器)が反応して、電気信号が神経を伝わって脳に届き、痛いと感じる。多くの方がイメージする痛みはこれです。

  • 神経が障害されて痛い→神経障害性疼痛
  • 神経が何らかの理由で障害されて、痛みを発することがあります。坐骨神経痛などは分かりやすい例です。他にも、帯状疱疹の後に痛みが長引く場合なども該当します。

  • 脳が敏感になって痛い→痛覚変調性疼痛
  • 痛みを最終的に感じるのは脳ですが、その脳が痛みに敏感になってしまって、痛みを過剰に感じたり、体に問題がないのに痛みが続いたりするものをいいます。

それぞれ、違ったメカニズムで起こる痛みなので、対処法も別になります。これらのタイプは単独で発症することもあれば、混合型として発症することもあります[1]

このうち、第3の痛みである、痛覚変調性疼痛がまだあまり知られていない、というのが問題です。この記事を書いている2026年6月29日現在、向日市で痛覚変調性疼痛をホームページに書いている院は存在しないようです。

侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・痛覚変調性疼痛

第3の痛み

珍しい話ではありません。複数の病院や治療院に通ったが改善しないという患者さんに、これまでどんな説明や施術を受けてきたのかお聞きすると、ほぼ第1の痛みの話しか出てきません。第3の痛みについては、全くといっていいほど考慮されていないのです。

痛覚変調性疼痛に該当する人がごく少数なら、対処できる院が少なくても仕方ないかもしれませんが、実際はけっこうな割合でいらっしゃるようです。まだ正確には分かりませんが、例えば、腰痛で理学療法を勧められた人のうち、22.2%が痛覚変調性疼痛に該当したという報告もあります[2]。そうした患者さんが、普通の痛みと同じように対応され、良くならずにいろんな治療院を渡り歩いている、というのが実情です。

朝日新聞2021年11月4日切り抜き

痛覚変調性疼痛という言葉は、まだ新しい用語ではあります。国際疼痛学会がノシプラスティックペイン(Nociplastic pain)を提唱したのが2017年。その訳語が痛覚変調性疼痛に決まったのが2021年です[3]。生まれてからまだ5年くらいしか経っていません。

しかし、痛みの慢性化に脳の変調が関わっていることは、かなり前から知られていました。ベースとなる概念自体は1983年に提唱されています[4]。私も痛覚変調性疼痛という言葉ができる前から、そのメカニズムについて学び、ブログにも書いています。その対策についても、普段の施術の中に少しずつ取り入れてきました。

痛覚変調性疼痛への対応

痛覚変調性疼痛への対応は、他の痛みとは異なります。体のダメージや神経の障害と、脳の変調が同じ対策にならないのは当然です。これに対処するには、慢性痛の知識が必須になります。

痛覚変調性疼痛は、脳が痛みに敏感になって起こりますが、これを中枢性感作といいます。何らかの理由で、脳内の痛みのコントロールが変調すると、痛みが何倍にも大きくなったり、長引いたり、時にはないはずの痛みさえ生み出されます。

脳にスピーカーのつまみがついているようなものです。入力される信号が弱くても、ボリュームを上げれば大きな音になります。さらに上げると、信号がなくても雑音が聞こえてきます。痛みもこれと同じで、その調節に影響するのがストレスです。

ここで問題になるストレスの一つ、恐怖回避については前回の記事にも書きました。痛みを怖がり、痛くなりそうな動作を避けていると、脳に悪影響をおよぼして痛みが長引くことはよく知られています。だからこそ、怖がらずに体を動かすことが大切です。これを患者さんに伝えないといけません。

「あなたの体はこわれていません。痛みがあっても、危険を知らせる意味はありません。火災報知器が壊れているだけで、実際には火事は起きていません。痛む動きはあるかもしれませんが、その動きを完全に避ける必要はありません。多少痛くても心配せず、できる範囲で少しずつ動かしてください。恐怖心がほぐれるにつれ、痛みも減ってくるものです。」

そういう説明が必要です。

また、痛覚変調性疼痛のメカニズムである中枢性感作は、恐怖回避との関連があることは事実ですが[5]、それだけで全て説明できるわけでもありません。中枢性感作は、睡眠障害、抑うつなども関係しています[1]

患者さんごとに傾向が違うので、個別に話を聞いて、対策も変える必要があります。体の問題と、心の問題を総合的に診るには、鍼灸はよい方法だと思います。

結論

というわけで、結論です。

痛みが治らないのはなぜ?

痛覚変調性疼痛が見過ごされ、適切な対処をされていない可能性があります。

この記事が参考になりましたら、SNS等で紹介していただけますと幸いです。

参考

[^1] Nociplastic pain: towards an understanding of prevalent pain conditions

[^2] Characteristics and Outcomes of Patients Receiving Physical Therapy for Low Back Pain with a Nociplastic Pain Presentation: A Secondary Analysis

[^3] 脳の変化で起こる痛み、「痛覚変調性疼痛」と命名 治療法開発に期待(朝日新聞)

[^4] Central sensitization: implications for the diagnosis and treatment of pain

[^5] Evaluating the novel added value of neurophysiological pain sensitivity within the fear-avoidance model of pain

浦﨑靖博

著者:浦﨑 靖博(うらさき やすひろ)
鍼灸師。2007年に向日市で開業して以来、鍼灸一筋。当サイトは全て浦﨑の自筆。ブログでは、主に現代医学の情報を解説している。X(Twitter)アカウント