姿勢や腰への負荷よりも知っておくべきこと

はじめに

腰痛の情報を検索すると、姿勢の話がよく出てきます。姿勢が悪いと、腰によけいな負担がかかって痛くなる。そこから、腰への負荷を減らしましょう、姿勢を改善しましょう、という話になりがちです。

いわゆる生体力学モデルに基づいた患者教育・アドバイスです。昔は痛みというものがよく分かっていなかったので、力学的に負荷がかかったら痛むでしょう、という形でしか説明できませんでした。

しかし、時代は変わりました。現在の腰痛医学ではこうしたアドバイスは採用されておらず、その代わりに出てくるのは「安心してください」「普段の活動を維持しましょう」という、当ブログで書き続けているメッセージです。

なぜ、こうなっているのかというと、姿勢や腰への負荷に気をつけるようアドバイスしても、メリットがないことが研究によって判明しているからです。

効果がなかった患者教育

2012年の研究です。生体力学モデルに基づいた患者教育の効果が調査されました[1]。具体的な方法は、次の通りです。

これまで、腰痛を予防するため「正しい姿勢」「安全な持ち上げ方」などを人々に教育して、実際に腰痛を減らすことができるのかを調べた研究がたくさん発表されています。それらの中から、質の高い、信頼できる研究だけを選び出し、結果を調べるわけです。

医学論文データベースを検索して、1350本がヒットし、その中から質の高い8本の論文を選び出しました。また、補足的な検索でもう1本が追加され、最終的に残った論文は9本となりました。

まさに、医学論文の上澄みです。その結果を調べたところ、生体力学モデルに基づいた患者教育のメリットは示されませんでした。あえてストレートにいえば、否定されたのです。

当ブログの読者の方であれば、それはそうだと思われたでしょう。単純な腰への負荷も、姿勢も、腰痛のリスク要因としては弱いですから、それらに気をつけましょうとアドバイスしても、大した意味はありません。そのことが研究で確認されたわけです。

新しい患者教育

慢性腰痛に対する患者教育として、最近よく目にするようになったものにPNE(Pain Neuroscience Education、疼痛神経科学教育)があります[2]

何をするかというと、痛みのメカニズムを患者さんに教えるのです。痛みが、単なる体の損傷・ダメージでないこと、恐怖心が関わっていること等を神経科学に基づいて伝えます。すると、患者さんにとって、痛みは「得体の知れない怖いもの」ではなくなり、結果もよくなります。正しい知識で痛みを克服する、それがPNEといってよいでしょう。

PNEは現状、慢性痛での研究が主ですが、急性痛に対しても行うメリットがあるかもしれません[3]。痛みが慢性化する要因として、恐怖回避があることは以前の記事でも触れました。痛くなりそうな動き・姿勢・活動を怖がり、避けようとしていると、痛みが悪化したり、長引いたりすることが分かっています。であれば、痛みが出た初期段階からそのケアを行うことで、より確実に慢性化を防げるかもしれません。

もしそこで、姿勢に気をつけましょうといった、旧来のアドバイスを行うとどうなるでしょう。恐怖回避を食い止めたいのに、痛くなりそうな姿勢を避けて下さいでは、何をやっているのか分かりません。

恐怖回避信念はどこからくるのか

痛いのは、体が壊れているからだ。体を壊してはいけない、痛みは避けなければいけない。こうした信念は痛みを悪化させ、長引かせます。しかし、その信念はどこから生まれるのでしょうか。これを調べた研究があります[4]

腰痛は損傷である、という信念を持つ人々にインタビューを行いました。彼らは激しい腰痛を経験しており、医療従事者に診断を求めましたが、診断がつかなかったり、説明がないことで混乱しました。どうしていいか分からなくなった彼らは恐怖を抱き、痛みを避けるようになります。

患者教育・アドバイスがうまく行われていないと、痛みが「得体の知れない怖いもの」になってしまうのです。先生の言葉は、患者さんの信念に長く影響します[5]。時に、その悪影響は甚大です。

なぜ痛むのか。そもそも痛みとは何なのか。痛みはどのように治っていくのか。自分にできることは何なのか。医療関係者がしてくれることは何なのか。今後の見通しはどうなのか。こうした話を、一人ひとりに合わせて、分かりやすく、時に面白く伝えるのです。

痛みについて勉強している先生であれば、私でなくても日頃から、自然とそういう話をしているはずです。回復に向けた道のりをナビゲートしつつ、施術によって実際の痛みも減らせれば、いい結果につながりやすい。当然の話です。

正しい情報を仕入れて自衛しましょう

現在、痛みはまだ完全に解明されてはいませんが、かなりのことが分かっています。

科学的に判明している事実に沿わないアドバイスは、痛みの改善に役立ちません。「姿勢が悪いと痛くなるから、姿勢を改善しましょう」という説明は、医学的に間違っており、その効果も確認できません。

一方で、正しく痛みのメカニズムを知っておくと、改善に役立ちます。PNEは、一部の診療ガイドラインでも取り上げられていて、信頼性があります。

世の中、間違った情報がなくなることはありません。翻弄されないように、自衛が必要です。

この記事が参考になりましたら幸いです。

参考

[^1] Effectiveness of preventive back educational interventions for low back pain: a critical review of randomized controlled clinical trials

[^2] Pain Education in the Management of Patients with Chronic Low Back Pain: A Systematic Review

[^3] Pain Neuroscience Education for Acute Pain

[^4] Beliefs underlying pain-related fear and how they evolve: a qualitative investigation in people with chronic back pain and high pain-related fear

[^5] The enduring impact of what clinicians say to people with low back pain

浦﨑靖博

著者:浦﨑 靖博(うらさき やすひろ)
鍼灸師。2007年に向日市で開業して以来、鍼灸一筋。当サイトは全て浦﨑の自筆。ブログでは、主に現代医学の情報を解説している。X(Twitter)アカウント