プラシーボ効果(プラセボ効果)という言葉を聞いたことはあるでしょうか。偽薬効果ともいいますが、ニセモノの薬や治療であっても効果が出てしまう現象をいいます。
例えば、ただの砂糖の錠剤でも、腰痛の人に飲んでもらうとなぜか効いてしまいます。昔は単に気のせいだろうと思われていたプラシーボ効果ですが、実は脳にしっかりと変化を起こしていることが分かりました。
期待感が高まると脳が活性化する
2005年の研究です。健常者14名のアゴの筋肉(咬筋)に高濃度の食塩水を注入して、持続的に痛みを感じる状態を作ります。その後、被験者の静脈にニセモノの鎮痛薬を投与して、脳の変化を調べました。
その結果、内因性オピオイドとその受容体が活性化していました。内因性オピオイドは体内で作られる鎮痛物質のことで、自然の痛み止めです。
また、背外側前頭前野(DLPFC)や側坐核などの活性化も確認されました。こちらは痛みを抑えるときに活動する部位になります。
本来なら効かないはずのニセ薬ですが、期待する気持ちが高まることで、もともと体に備わっていた鎮痛作用が活性化しました。ポジティブな気持ちは痛みに打ち勝つといっていいでしょう。
Placebo effects mediated by endogenous opioid activity on mu-opioid receptors.
もう一つ、2007年の研究です。先ほどの研究と同じように、アゴの筋肉に高濃度食塩水を注入して痛みを起こします。そこに、「私達は鎮痛薬の効果を研究しています。この薬は、脳を活性化して痛みを抑えると考えられます」と伝えた上でニセの鎮痛薬を投与しました。その結果、鎮痛薬への期待感が大きくなるほど側坐核が活性化して、鎮痛効果も高まることが分かりました。
Placebo and nocebo effects are defined by opposite opioid and dopaminergic responses.
2つの研究でプラシーボとして使われたニセの鎮痛薬、その正体は生理食塩水です。ただの塩水ですから、薬としての作用は一切ありません。薬の力ではなく、自分の力で治しているのです。
痛みを想像するとペインマトリックスが活性化
人の心が引き起こすのは良い効果ばかりではありません。
健康な男性10名に痛々しい場面や恐怖心を煽るような写真を見せ、それが自分の身に起きていると想像させて脳の活動を調べた研究があります。それによると、痛みや恐怖を想像すると、それだけで脳のペインマトリックスが活性化してしまうことが分かりました。ペインマトリックスとは痛み関連脳領域といって、痛みを感じるときに反応する場所のことです。
体が痛いときは自然と気持ちがネガティブになり、痛みのことばかり考えてしまいます。しかし、それは自分で痛みを悪化させている可能性があります。
気持ちを前向きに
例えば、大好きな趣味に没頭しているとき、痛みのことを忘れていた経験はないでしょうか。もしくは、天候が悪いときに痛みのことを考えてしまい、実際に痛みだした経験はないでしょうか。気持ちが痛みに影響することは知っておいて損はありません。
分かっていれば、対策を打つこともできます。
ストレスから距離を取る。
他人と自分を比較しない。
痛みのことをなるべく考えない。
日常の楽しいことに目を向ける。
自分を褒める。
感謝する。
笑う。
好きなことを楽しむ。
一見すると痛みに関係なさそうなことが、痛みの改善につながります。
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