前かがみは危険なのか?

前かがみは危険なのか?

前かがみが危険?

腰痛のきっかけは様々ですが、それが強く印象に残ると、○○は危険というイメージにつながりやすいようです。例えば、朝、顔を洗おうとして前かがみになり、ギックリ腰を発症した場合などです。そういう経験をすると、次から腰に痛みが出ないようにと、慎重に体を使うようになったりするものです。

前かがみの体勢では、腰への負荷が増えること自体は事実です。古くはナッケムソンによる研究が有名ですが、そうした負荷は腰痛の原因と呼べるほどのものではなく、ナッケムソン本人も否定しています

しかし、ネットを見ていると、医学論文を引用して前かがみに警鐘を鳴らす記事もあるようです。このあたりを考えてみよう、というのが今回の記事になります。

基本的に大丈夫だが、例外はある

まず、確認しておきたいのは、基本的に前かがみの姿勢は腰痛の原因ではない、ということです。2010年の研究で、前かがみや捻り動作が腰痛に関係するか調べられていて、因果関係を証明するような結果は出ませんでした[1]

前かがみになったタイミングで痛みが出た人からすると信じられないかもしれませんが、その時に痛みが出たからといって原因と決まるわけではありません。もしそうなら、食事をして腰痛になると、腰痛の原因が食事になってしまいます。本当にそれが原因なのかを調べるには、個人的な体験談ではなく、客観的な研究が必要になります。その研究の結果として、前かがみ→腰痛は否定されています。

ただし、あらゆる条件で前かがみが一切関係ない、というわけではありません。例外はあります。

仕事における「極端な前屈姿勢」については、椎間板ヘルニアと関連性が認められます[2]。もしくは、仕事で20°以上の体幹屈曲を1日に1時間以上行うような場合は、5年ごとに腰部神経根症候群(坐骨神経痛など)の発症が1.12倍増える、という研究があります[3]

極端な姿勢や、長年の蓄積による影響はありうる、ということです。ただし、いくらか確率が上がるという話であり、これをもって「前かがみは危険」というのは言い過ぎでしょう。前かがみを避けるように推奨しているガイドラインもありません。

恐怖回避の問題も考えれば、「普通は心配いらない」「過剰な負荷は軽減する」というあたりが穏当だと思われます。

長時間の同一姿勢の方が問題では

ついでに書いておきますが、姿勢を問題にするのなら、どの姿勢が良い悪いではなく、長時間の同一姿勢の方かもしれません。

ある研究では、16人の参加者に2時間立っていてもらいました。すると、16人中15人が腰痛を発症しました[4]。また、ある研究では、2時間立っているだけと比べて、25分おきに5分歩く時間を挟むと腰痛になる割合が大きく減りました[5]

特に悪い姿勢でなくても、同じ姿勢が続けば痛くなるし、姿勢を変えればマシになります。といいますか、そもそも人間は、一つの姿勢のまま固まっていられるようにはできていません。

「どの姿勢がいいとか悪いではなく、楽な姿勢で大丈夫ですよ」というのは、私がよく言うことです。

理学療法の分野では、「最高の姿勢とは次にとる姿勢」という言葉が使われることがあります。姿勢は変化し続けるものです。その時その時で、必要な姿勢や動作を自然に行えることが大事なのであって、理想の静止画を押し付けるものではありません。

参考になりましたら幸いです。

参考

[^1] Causal assessment of occupational bending or twisting and low back pain: results of a systematic review

[^2] Occupational risk factors for symptomatic lumbar disc herniation; a case-control study

[^3] Work-relatedness of lumbosacral radiculopathy syndrome: Review and dose-response meta-analysis

[^4] Prolonged standing as a precursor for the development of low back discomfort: an investigation of possible mechanisms

[^5] Walking breaks can reduce prolonged standing induced low back pain

浦﨑靖博

著者:浦﨑 靖博(うらさき やすひろ)
鍼灸師。2007年に向日市で開業して以来、鍼灸一筋。当サイトは全て浦﨑の自筆。ブログでは、主に現代医学の情報を解説している。X(Twitter)アカウント