医学における原因とは?
出来事の引き金=原因だが
医学の話題でよく出てくる言葉に、原因があります。一般的に、原因は「出来事の引き金、根源」ですが、医学ではもっと限定した意味で使われます。
このニュアンスが分かると、医学情報の理解度が大きく変わります。まずは相関関係について押さえておいて、それから言葉の意味を整理していきます。
相関関係とは
有名な例です。不思議なことに、家計におけるアイスクリームの支出は、水難事故の件数と同じ傾向が見られます。

こういう結果が出たとき、アイスクリームと水難事故は「相関関係にある」といいます。片方が増えると、もう片方も増えるという関連性があるので、正の相関関係です。では、水難事故の原因はアイスクリームだったのでしょうか?アイスを食べてお腹を壊した人たちが、水に溺れたのでしょうか?
そうではありません。グラフを見ると、どちらも夏に増えています。暑いからアイスクリームが売れるし、暑いから海や川に遊びに行く人も増えて、結果として水難事故が増える、という関係になっています。気温という共通の問題が隠れている。これを交絡因子といいます。交絡因子を統計的に調整すると、アイスと水難事故の関連性は消滅します。
試しにやってみましょう。気象庁のデータ(平均気温)を使って、回帰分析を行い調整します。それがこのグラフです。

ずいぶん関係なくなりました。今回は12ヶ月分だけのデータですが、もっと長い期間のデータを使えば、関連性はさらに分からなくなります。
このように、本来は直接関係ないものでも、統計上の関連性が出てしまうことがあり、これを疑似相関といいます。相関関係は、必ずしも因果関係を意味しません。
原因とは?医学用語を整理する
・要因
原因、リスク要因、保護因子など、関係ありそうなもの全てを含む総称。
・リスク要因
前向きコホート研究やケースコントロール研究などで、その要因が発症率を増やすと確認できたもの。
ただし、コホート研究やケースコントロール研究は、リスク要因は検出できても因果関係の証明にはならないので、交絡・偏り(バイアス)といった見かけの関連が含まれる。
・原因
ヒルの基準などにより、リスク要因がふるいにかけられ、因果関係が支持され、確実性が高いものが原因とみなされる。
ヒルの基準(因果関係の判定)[1]
- 強固性 (Strength):要因と疾病が強く関連すること。
- 一致性 (Consistency):異なる研究者によって、異なる地域・条件・時間に、関連性がくりかえし観察されること。
- 特異性 (Specificity):特定の要因のみから疾患が発症したり、特定の疾患のみが要因から発症するような、要因と疾病の間に特異的な対応が存在すること。
- 時間的前後関係 (Temporality):原因と考えられる要因が疾病の発症に時間的に先行すること。
- 生物学的勾配 (Biological gradient)または量反応曲線 (dose-response curve):要因の程度が強くなるほど疾病の頻度も高くなること。
- 妥当性 (Plausibility):観察された関連性を支持する生物学的知見が存在すること。
- 一貫性 (Coherence):観察された関連性が、疾病の自然史や生物学に関する既知の事実と一致すること。
- 実験的研究 (Experiment):観察された関連性を支持する実験的研究が存在する。
- 類似性 (Analogy):類似した関連性が存在すること。
専門家ほど、原因という言葉を安易に使いません。本当に信頼できるのか?見かけの関連にすぎないのではないか?そして、そこに介入(治療など)をして、良いことがあるのか?と疑い続けますし、新しい研究結果が示されれば、考えを修正します。
腰痛で考える
以下、腰痛を例に考えてみましょう。
例えば、姿勢は腰痛との関連性が低く、複数の研究で結果が一致しません。2025年のシステマチックレビューでは「確固たる結論は得られなかった」となっています[2]。要因には入りますが、リスク要因としてもかなり微妙です。原因とみなすのも厳しいでしょう。
一般的な意味での重量物の持ち上げは、従来、腰痛の独立した原因とはみなされていません[3]。ただし、弱~中程度の影響ながらも関連性が認められたとする研究が2023年に出ているのは気になります[4]。弱いリスク要因の可能性があります。
一方で、看護師の人力による患者の持ち上げ動作は、一貫して認められる腰痛のリスク要因となります[5]。看護師という仕事の特性上、それは単なる腰への負荷ではなく、仕事の責任・時間的な制約・患者優先・疲労の蓄積などが積み重なっているところで、はじめて腰痛のリスク要因として浮かび上がってくるものです。ただし、独立した原因ではありません。
腰痛の原因としてはっきりしているものは、特異的腰痛と呼ばれています。具体的には、腫瘍、感染症、骨折などです(場合によって神経根症候群を含む)[6]。
まとめ
今回は、医学用語の「原因」について説明しました。原因という言葉は非常によく使われますが、医学的にはかなり使い方に注意が必要な言葉でもあります。どのように使われているか注意して読むと、新しい発見があるかもしれません。
この記事が参考になりましたら、SNS等で紹介していただけますと幸いです。
参考
e-Stat 統計表・グラフ表示 家計調査 家計収支編 二人以上の世帯
河川財団「No More 水難事故2025(令和7年7月現在 2003-2024年収集データ)」
[^1] 総論表2 Hillによる因果性の判定基準(総務省)
[^2] Postural asymmetry in low back pain - a systematic review and meta-analysis of observational studies
[^3] Causal assessment of occupational lifting and low back pain: results of a systematic review
[^4] Occupational mechanical exposures as risk factor for chronic low-back pain: a systematic review and meta-analysis
[^5] Prevalence of Low Back Pain and Associated Risk Factors among Nurses at King Abdulaziz University Hospital
[^6] An updated overview of clinical guidelines for the management of non-specific low back pain in primary care


