「体幹が弱いから腰痛になる」は本当?

体幹安定化運動4種

ネットの記事や動画を見ていると、しばしば気になる表現が出てきます。その一つがこれです。

「腰痛の原因は体幹の筋肉が弱くなったせい」

そして、こう続きます。

「体幹を鍛えて、腰痛を改善しましょう」

インナーマッスルが弱いとか、体幹安定化運動、もしくはコアトレーニングとか、どこかで目にした方も多いのではないでしょうか。一見すると、何も問題ないように見えると思います。私としても、腰痛(特に慢性腰痛)に対して運動は普通におすすめできると思っています。ですが、一つどうも気になってしまう部分があります。

「体幹の筋肉が弱くなったせい」

これです。これが気になる表現です。おそらく、多くの方が自然に納得してしまう言葉ですが、ここに誤解が含まれています。

患者さんの口からこの言葉が出てきた場合、私は少し時間を使って説明した方がいいと思っています。この誤解を解かないままだと、腰痛の改善がスムーズにいかない可能性があるからです。

順に解説していきます。

腰痛は、体幹の筋肉が弱ったせいなのか?

まず押さえておきたいのは、腰痛は本当に体幹の筋肉が弱ったせいなのか、という問題です。これについては複数の研究が行われていますが、体幹が弱る→腰痛という分かりやすい結果にはなっていません[1]。完全に無関係とはいいませんが、現状では証拠不十分であり、腰痛の原因とみなすのは無理があるという状況です。

体幹の筋力が弱ると、体をしっかり支えられなくなり、特定の部分に負荷が集中して痛みが出る、という説明はよく見かけます。しかし、この理屈だけでは説明できない現実があって、それが加齢と自然治癒です。

人は年齢を重ねるにつれて筋力が落ちていく傾向があります。しかし、では高齢者に腰痛が多いのかというと、そう単純ではありません。過去記事で解説しましたが、ある調査によると腰痛が多いのは30~40歳で、そこから先はゆるやかに減っていく傾向が見られます。肉体的には充実している時期に腰痛が多いという点は重要です。

また、腰痛はそもそも自然治癒する傾向があります。もし、腰痛の原因が体幹の筋力低下なら、自然治癒がなぜ起こるのか説明できなくなります。何もせずに体幹の筋力が増強されるとは考えにくいでしょう。

タイミング・アンバランスはどうか

体幹の筋肉では、筋力以外にも注目点があります。筋肉が動くタイミングです。腕を挙げるとき、それより先に腹横筋というお腹の深いところにある筋肉が収縮するのですが、腰痛の人はそのタイミングが遅れる、という話があります[2]。そこから、運動制御がうまくいっていないのでは?腹横筋を鍛えればいいのでは?という話が出てきます。ただ、これもその後の研究で否定的な結果が出ていて、必ずしも関係していないのです[3]。

もしくは、体幹の筋肉のアンバランスという話もあります。こちらは一部の研究で、アンバランスが関係している可能性は出ていますが、アンバランスだから痛いのか、痛いからアンバランスになっているのか分かりません[8]。まだまだ研究が足りておらず、現状では原因とはいえないでしょう。

体幹安定化運動の効果

では、体幹を鍛えても意味がないのかというと、それも違います。

研究によると、体幹安定化運動は腰痛の改善に役立ちます。ただし、腹筋の動きへの影響は乏しく、他の運動と比べて腰痛の改善に優れているわけでもない[4][5]。そういう結果が出ています。

また、体幹安定化運動の量としては、20~30分程度を週に3~5回行えば効果は最大になり、そこから先は頭打ちになります[6]。たくさん鍛えれば鍛えるほど効果が出るという性質のものでもありません。

腰痛の改善に運動がよいのはこれまでにも書いてきた通りです。その選択肢として、体幹のトレーニングは普通にアリです。ただし、体幹の筋肉が強くなった結果として効果が出るのかはハッキリしません。今のところは、運動が腰痛によいとだけ覚えておくのが無難でしょう。

体幹の筋力低下説、その懸念点

「腰痛は体幹の筋肉が弱ったせい」
この説明がまずいのは、体幹を鍛えないと治らない、というメッセージになり得るからです。間違った信念を植え付けかねない言葉です。腰痛は多因子性で、原因を一つにしぼり込めることは少なく、その対策についても、複数の方法を組み合わせることが望ましいといわれています。

また、体幹安定化運動で治らなかった患者さんを迷路に追い込む恐れがあります。腰痛が改善しないのはトレーニングが足りないという意味ではありません。体幹安定化運動は選択肢の一つではありますが、唯一の正解ではありません。腰痛診療ガイドラインでも、体幹安定化運動は必須ではありません[7]。

この誤解を解かずに施術を行って痛みが減ったとしても、患者さんの心の中に「でも体幹弱いから、また悪化するのかな」という心配を残すかもしれません。その心配は自己効力感(自分で対処できるという実感)を削り、また恐怖回避信念(痛くなりそうな動きを避ける)を後押しして、回復を遅らせる懸念があります。

一つの選択肢として

体幹の安定化運動は、腰痛を改善するための「一つの選択肢」です。体幹を鍛えることだけが唯一の腰痛対策というわけではありません。

腰痛の改善を目指す上では、それぞれが自分に合った、取り組みやすい方法を選んでいいのです。「これなら自分でも続けられる」という実感が持てれば、それが回復への大きな一歩になります。

具体的にどうしたらいいか分からないという場合は、当院にご相談いただければと思います。

参考になりましたら幸いです。

参考

[^1] A systematic review of the relation between physical capacity and future low back and neck/shoulder pain

[^2] Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. A motor control evaluation of transversus abdominis

[^3] Do changes in transversus abdominis and lumbar multifidus during conservative treatment explain changes in clinical outcomes related to nonspecific low back pain? A systematic review

[^4] An update of stabilisation exercises for low back pain: a systematic review with meta-analysis

[^5] Effect of core stability exercises on feed-forward activation of deep abdominal muscles in chronic low back pain: a randomized controlled trial

[^6] Dose-response-relationship of stabilisation exercises in patients with chronic non-specific low back pain: a systematic review with meta-regression

[^7] 腰痛診療ガイドライン2019

[^8] Core Synergies Measured with Ultrasound in Subjects with Chronic Non-Specific Low Back Pain and Healthy Subjects: A Systematic Review

浦﨑靖博

著者:浦﨑 靖博(うらさき やすひろ)
鍼灸師。2007年に向日市で開業して以来、鍼灸一筋。当サイトは全て浦﨑の自筆。ブログでは、主に現代医学の情報を解説している。X(Twitter)アカウント