合谷への置鍼

合谷への置鍼

置鍼術とは

置鍼術(ちしんじゅつ)とは

鍼治療のテクニックの一つです。刺鍼した後、その鍼をすぐに抜かずにしばらくそのまま放置する方法です。

時間の経過によって刺激量をコントロールできるのが特徴です。また、鍼から手を離せますから、置鍼している間に次の鍼、次の鍼と複数の場所に刺鍼できます。置鍼時間は当院だと10分前後のことが多いです。まれに20分ほど置いておく場合もあります。手を離さずに鍼を留める方法は留鍼という呼び方をします。

鍼灸の技術を勉強するとき、必ず初期に習う方法ですが、かつての私はあまり重要視していませんでした。(今は高頻度で使います)

刺した鍼をそのまま置いておくだけですから、技術レベル的に難しいものではありません。そのため、初心者が使う方法だという先入観があり、超浅刺や接触鍼※などのテクニックの方が価値が高いと錯覚していたのです。お恥ずかしい限りです。

テクニックが通じない!?困った末に

開業して間もない頃の話です。

ある時、男性の患者さんが初診でお見えになりました。腰~背中~肩までガチガチで助けてほしいというのです。触診してみると、本当にガチガチと表現するしかない状態です。

いつものようにテクニックを駆使して挑みましたが、どう頑張っても緩む気配がありません。打つ手に困り、やむなく背中に広く10本ほど鍼をして、置鍼することにしました。

んー、でもたくさん刺したといっても所詮は置鍼だし、そんなに効かないんじゃないのかなぁ。次どうするか・・・何か他の手は・・・。ゆっくり動く時計を横目に他の策に考えを巡らせていました。

15分ほど待ってから、背中を確認してみると、さきほどまでの硬さがウソのように緩んでいます。「え、緩むの?」思わず心の中で叫びました。ただ鍼を置いておいただけでテクニカルな技法よりずっと効いたわけですから、目から鱗といいますか自分の勘違いに気がついた瞬間でした。

何事も向き不向き、適不適があるという話です。テクニカルだからよく効くということでは全く無い。目的に沿った方法を選べば、ちゃんと効くのだということを教えてくれた基本技術。

それが置鍼法です。

その後は考えを改めてよく使うようになりますが、鍼を置く時間によって効果が逆転する現象が見られたりもして、使いこなすには工夫も必要でした。単純に見えて奥の深い技術です。

リラックス効果が高いですから、置鍼中に寝てしまう患者さんも多いです。

※接触鍼 鍼の先を皮ふに接触させるだけの極軽い刺激を与える。全身への効果が高い。
※超浅刺 首藤傳明先生が考案した方法。接触鍼に似ているが、高速で回旋させるため、極わずかながら鍼が入る。

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