保証書
今日は休診日でしたが、来客の予定がありましたので鍼灸院にいました。仕事の話を中心に色々と話し込んでいたのですが、その中で出た話題の一つです。

治療院で返金保証ってどうなんでしょう?

昨今、マーケティング手法の一つなのでしょうが、初回の返金保証をつけている院がしばしば目に入ります。初めての治療院というのは不安が多いものだと思いますので、安心していただけるよう配慮するのは当然のことだとは思います。しかし、返金保証というのは、医療としてどうなのかと首をかしげざるをえません。

初回の施術で、効果が全く感じられなかったら全額返金。よほど自信があるのだろうと思しき文言ですが、これの何が問題なのかというと、初回で変化のでない患者さんを全て諦めている、という点です。初回で効かなかった患者さんは、返金するからもう来なくていいと言っているかのようです。

例えば、痛みを訴えて来院されたとします。痛みの中でも多いのは、筋肉の痛みです。つまり、身体を動かすと痛い。そこに施術をするわけですが、初回で必ず変化が起きるものなのでしょうか。私は「必ず」はありえないと考えています。100%をうたうのは医療ではありません。

根の深い症状、慢性化した症状の治療はお手軽ではない

当院だと、90%以上の方が初回から変化・改善を感じられますが、そうではないケースもあります。それは複数回の治療を積み重ねて、ようやく改善してくるような根の深い痛みや慢性化した痛みです。

こうしたケースでは、初回で無理に変化を出そうと頑張っても、良い結果が出ないことがあります。だるくなっただけだったり、逆に具合が悪くなることもあります。でも、やさしい施術を積み重ねていると、じわじわと改善が見られることは多いものです。

治り方にも個性があります。もちろん、お悩みの種類によっても変わります。

1回で諦めるのは早すぎます

「初回の施術で効果がなかったら返金」という保証は、一見すごそうに見えますが、治る可能性のある患者さんを早々に諦めてしまっているという点で、ずいぶんだなと感じてしまいます。出来る施術が完全にワンパターンで、他に打つ手が何もないという話であればギリギリわからなくもないですが、それなら開業すべきではないでしょう。

どんな施術理論であれ、ある患者さんに打てる手が一つしかないなんてことは普通ありません。効果が見られなければ、次の手、また次の手があるはずです。もしくは、この場合は○回くらい施術したら変わってくるな、という見通しが頭の中にあるのが普通です。

改善できたかもしれない可能性を諦めて、初回のハードルを下げることだけに注力するような保証の付け方。これは、初回で変化がなかった方にとっては大きな損失ではないかと思えるのです。

そもそも治療のゴールをどこに設定しているのだろう

痛みの治療を行うとき、施術をした結果どうなれば改善したことになるのでしょうか。私は「痛みを気にせずに生活できるようになる」だと思っています。痛みをなんとかしてほしいと訴えて来院されるわけですから、他にはないように思います。

ところが、初回返金保証をやっている院はそうではありません。そもそも、体のゆがみで痛みが出るという変な理論ですので、治療のゴールは体のゆがみが矯正されることです。つまり、痛みが変化していなくても、体のゆがみがマシになっていたら返金する必要はないということです。

これは治療院側にとって極めて有利です。はっきり言えば、マッサージを1~2時間ほど勉強すれば誰でも達成できるくらい低いハードルです。筋肉は揉めば弛緩しますので、硬いところを揉めばそれだけで姿勢には変化が出ます。

そういう院のサイトをよく読んでみると、「1ミリも改善しなかったら」と書いてある場合があります。ミリって、痛みを表す単位ではありません。姿勢や体の動きを表現するときに使われます(指床間距離など)。「痛みが少しも改善しなかったら」と解釈はできますが、逃げ道として使うこともできる、実に商業的な表現です。

しかし、実際に整体を受けて、姿勢はきれいになったけど痛みが治らないという患者さんが当院にいらっしゃることがあります。姿勢では痛みを語ることはできません。

このように、どう考えてみても、初回返金保証というのは治療院とは相容れないものだと思います。