東洋医学って、分かりにくいですよね。
何となく、自然で、根源的で、神秘的な雰囲気はあるものの、具体的にどういうことなのか知ろうと思うと一気にハードルが上がります。言葉も聞き慣れないものが多く出てきますので、教科書の序盤でつまづく鍼灸学生も珍しくありません。

例えば気です。気って言われても何なのか分からないと思いますが、それは極自然なことです。なぜなら、よく分からないものをひっくるめて気と呼んでいるにすぎないからです。

消化吸収から考える気

例として、消化吸収を考えてみましょう。食事をしますと、まず口で咀嚼されて砕かれ唾液と混ざった食物が胃に入り、胃酸やら消化酵素やらでさらに分解され、小腸なり大腸なりで吸収されます。ところが、東洋医学が生まれた昔の中国では、まず胃酸とか消化酵素が分からないわけです。

残酷な話で恐縮ですが、大昔には食事をして少し時間が経ったあとに、その人を殺害してお腹を裂き(うわー)、消化がどう進んでいるか調べるということは行われていたそうです。でも、なぜ消化という現象が起きるのかは知るすべがない。

そのため古書では、食物を消化するのは「胃の気」の作用であると表現されました。消化器系の複雑な働きを「胃の気」という一言で説明してしまっているわけです。何がどう作用しているか具体的に分からないとき、気という言葉が使われます。

気とはそういう抽象的な言葉です。ですから、気と言われてもよく分からないのは当たり前なのです。

経絡も気の作用を説明するために生まれたのでは?

東洋医学には、気の通り道として経絡(けいらく)という概念が出てきます。これもやっぱり概念でして、見ることも触れることもできません。その意味では、実在するかと言われれば、実在しません。古代の血管か神経ではないかという説もあるようですが、はっきりしたことは言えません。

これは推測になりますが、古代の鍼灸師は、鍼灸を施して効果がでる理由を「気の働きである」としか説明できなかった。そして、刺激したツボから離れた内臓などに効果がおよぶ理由を説明するために、気が媒介している=気の通り道(経絡)でつながっているという理論を生み出したのではないでしょうか。

解明にはまだまだ時間が必要

現在は、鍼灸の効果は科学的に研究されていて、刺激が神経を伝わって脳や脊髄に届き何かが起きているということが分かってきています。しかし、同じ支配神経のツボなのに、数センチ位置が違うだけで効果が変わるなど、まだまだ分からないことも多いようです。

現代医学の進歩は素晴らしく、昔の鍼灸師たちが気と呼ぶしかなかった作用も次々と明らかになっています。しかし、気と呼ばれた作用の全てが解明されるには、まだまだ時間が必要になると思われます。

また、気や経絡という東洋医学理論を一切使わずに、鍼灸で効果を上げることも現時点では難しいと考えられます。むしろ、今後は使えるものが選別されて残っていくでしょう。

もし、気や経絡という言葉が気になったら、「何かの作用」という程度に考えておくといいと思います。

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