椎間板ヘルニア

伊藤かよこ先生という方がいる。
「人生を変える幸せの腰痛学校」という本の著者だ。
直接の面識はないのだが、Facebookで少しばかりやりとりがある。

この方がプレジデント・オンラインに次の記事を書いた。

ほとんどの椎間板ヘルニアは腰痛と無関係 プレジデント・オンライン
http://president.jp/articles/-/22463

この記事はいまの時点で、Facebook上で430件のいいね、160件のシェアがされている。
まだお読みでない方は、ぜひ一度読んでいただきたい。

少し引用させていただく。

腰が痛くないボランティアを集め、MRI検査をした。すると……なんと76%の人に「椎間板ヘルニア」が見つかった!
「腰が痛くない人」の76%。しつこいようだがもう一度言っておく。「痛くない人」の76%にだ。

ここで取り上げられているのは、この論文。
1995 Volvo Award in clinical sciences.
The diagnostic accuracy of magnetic resonance imaging, work perception, and psychosocial factors in identifying symptomatic disc herniations.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=Boos%20N%201995%202613-25

腰痛のない健常者において、76%に椎間板ヘルニアが見つかったこと、85%に椎間板変性が見つかったことが書かれている。
その上で、MRI画像は腰痛との因果関係を説明しない可能性が非常に高いと指摘している。
また、この論文は腰痛研究の中でも特に優れた研究に贈られる、国際腰椎学会のボルボ賞を受賞している。

これは事実である。
事実は動かない。
ただ、そこから先の解釈は読み手に委ねられる。
肯定的な意見もあるだろうし、否定的な意見もあるだろう。

しかし、腰痛のない人の76%にヘルニアが見つかったという事実だけは否定しないでいただきたい。
事実の否定は、科学の否定と同じである。

伊藤かよこ先生の記事は、ヤフーニュースをはじめとした複数のニュースサイトにも掲載され、多くの反応があった様子である。そうした反響を見ていて、気になったことがある。

それは、実際に椎間板ヘルニアと診断されて、手術を受け、無事に完治された方々の声である。
その声の多くは「怒り」。

その怒りはもっともである。
痛みに苦しみ、ヘルニアと知らされた時の困惑、不安、もしかしたら原因がつきとめられた嬉しさ、手術を決断する勇気、そして腰痛から解放された喜び。
それらを否定するように感じられたなら、怒りが湧き上がるのも当然である。

だが、ヘルニア手術で腰痛が治ったら、原因はヘルニアだったのだろうか。
これは、そう簡単に結論を出せる問題ではない。
なぜなら、治ったかどうかだけでは因果関係の証明にはならないからである。

例えば、霊媒師である。
腰痛の原因は悪霊のしわざだからお祓いしましょうという人がこの世には実際にいる。
そして、本当にお祓いで腰痛が治ってしまう人もいるわけだが、ではその腰痛は悪霊が原因だったのか。

治ったことと因果関係があることは別の話である。
ヘルニアが腰痛の原因だと証明するには、統計を駆使して関連性を見いだすしかない。
ところが、現状ではヘルニアを腰痛の原因とするだけの証拠は出てこない。

ボルボ賞の論文が出されたのは今から20年前であるが、これが未だに覆っていないのである。

記事を読んで疑問に思った方は、ぜひご自身の手で調べてみていただきたい。
今ならネット検索すれば情報は大量に手に入る。
このサイトにも情報は掲載している。

本を読むのも一つの方法だ。伊藤かよこさんの腰痛学校を読んでみてもいいだろう。

ご自身で納得がいくまで情報を吟味されることを願う。