幅広い疾患に効果を発揮する鍼灸ですが、なぜ効果が出るのでしょうか。そのメカニズムについて見ていきます。

体に鍼(はり)やお灸をすると、小さいながらも傷がついたりヤケドができたりします。このとき発生した痛み刺激は、脳などへ伝わって様々な反応を起こします。

軸索反射

皮膚を鍼で刺激すると、皮膚に発赤(ほっせき)と呼ばれる赤い部分ができます。この部分は、皮膚の毛細血管が広がって、血流が増加したことを意味しています。

本来、痛み刺激は、皮膚にある痛みセンサーから脊髄へ、そして脳へと伝わります。しかし、信号が神経を逆行して末端に伝わる場合があります。これを軸索反射といい、血管が広がって血行が促進したり、痛みが軽くなったりという反応が起こります。
軸索反射

内因性オピオイドの放出

オピオイドとは痛み止めの薬、一種の麻薬のようなものだとお考えください。人体には、自分で痛み止めを出す機能がそなわっています。鍼灸治療は、この内因性オピオイドの放出を促す作用があります。

鍼をすると鎮痛効果が現れますが、このとき内因性オピオイドであるβエンドルフィンを押さえ込む薬(ナロキソン)を投与すると、鎮痛効果がなくなるという研究があります。このことから、鍼がβエンドルフィンを放出させることが明らかとなりました。

下行性抑制系

下行性抑制系とは、痛みの感覚情報を脊髄で遮断する働きのことです。このメカニズムは、視床下部弓状核から視床下部腹内側核へと至り、そこから2系統に分かれます。

一方は、巨大神経細胞網様核から脊髄後角へ、もう一方は中脳中心灰白質腹側部背側縫線核から延髄大縫線核を経て脊髄後角へと至ります。鍼灸治療は、この経路を賦活させる働きがあると考えられています。

広汎性侵害抑制調節(DNIC)

いわゆる、痛みで痛みを抑制する現象のことです。鍼や灸による痛み刺激は、全身どこであっても、痛みの情報伝達を押さえ込む効果があります。

このメカニズムは、刺激してすぐに効果が現れること、ナロキソンでは一部しか効果が消失しないなど、内因性オピオイドによる鎮痛とも異なった特徴があります。

自律神経への作用

人は、手を動かそうと思えば自由に動かすことができますが、では心臓の鼓動を早くしようと思っても自由に心拍をコントロールすることはできません。心臓の鼓動は意思によってではなく、自動的にコントロールされています。このように、体のさまざまな働きを自動的に調節してくれている神経のことを自律神経といいます。

自律神経には、交感神経と副交感神経があります。交感神経は、アクセルに例えることができます。心臓の鼓動が早くなったり、汗をかいたりするのは交感神経の働きです。これに対して、副交感神経はブレーキにあたります。心身を落ち着け、リラックスさせる働きがあります。例えば、胃腸の消化吸収を促すのは副交感神経の働きになります。

交感神経と副交感神経は互いに影響しあいながらバランスを取っていますが、鍼灸はこの自律神経バランスに作用することが分かっています。例えば、胃腸の働きを活発にしたり、血行を促進したり、筋肉の緊張を和らげたりといった具合です。

免疫系への作用

鍼灸の刺激が大脳に伝えられると、大脳辺縁系・視床下部に信号が伝わり、そこから自律神経系・内分泌ホルモンにより、各臓器が調節されるのに加えて、脳内で分泌されたホルモンによって細胞免疫系が調節されます。

近年では、福田-安保理論によって、交感神経・副交感神経のバランスが、細胞性免疫・液性免疫のバランスに関わっていることが広く知られるようになりました。

鍼灸は自律神経バランスに作用しますので、結果的に免疫バランスにも作用することになります。

鍼灸でバランス調整